ウェルス・マネジメント

当記事は、マッキンゼー・アンド・カンパニーが公開している、同社グローバルウェルス&アセットマネジメント研究グループのレポートから抜粋したものです。

はじめに

世界が直面したCOVID-19のパンデミックはまさに人道的な課題であり、さらに追い打ちをかけるように世界的な経済活動の縮小が急速に進んでいる。今後の経済の見通しについては議論の余地があるが、今般のパンデミックにより、アジアのウェルス・マネジメント業界における破壊的な影響に、より一層拍車がかかったことは明白である。アジアの投資家や投資アドバイザーは、パンデミックの収束と同時に、自らの「Next Normal」を見出していくことになる。

そのため、ウェルス・マネジャーは、ポストコロナを見据え、以下について考慮する必要がある。ウェルス・マネジメントはどう変わるのか。従業員の安全と健康をどう守るのか。顧客行動はどう変化するのか。新たなニーズや期待に対応すべく迅速な対策を講じるにはどうすればよいのか。「Next Normal」はリスク評価手法にどう影響するのか。デジタルチャネルはどの程度まで顧客インタラクションの標準となり得るのか。また、それは既存の物理的チャネルの合理化とどうつながるのか。

ただし、「Next Normal」がどのように展開されたとしても、アジアのウェルス・マネジメント業界が魅力的な市場であることに変わりはない1。アジアのオンショアの個人金融資産(PFA)は2019年末時点で約34兆米ドルと推定され、2014~2019年の年平均成長率は約10%であった。これに対して、欧州や北米の同時期の成長率は5~6%である2。加えて、ウェルス・マネジメントのアドバイザリーやファイナンシャルプランニングはアジアではまだ浸透しておらず、ウェルス・マネジャーが運用している資産は地域の個人金融資産全体の15~20%程度である。これを見ても、アジアが世界の他地域より急速に成長する機会は十分にある。

我々は、アジアにおけるウェルス・マネジメントの将来について慎重ながらも楽観的な見方を保っているが、ポストコロナの競争に勝つのは容易ではない。今は目の前の危機をやり過ごすことができているとしても、業界の再編は必至と言える。

マッキンゼーは、「オペレーションの更なる重視」、「デジタル/アナリティクスの活用強化」、「合従連衡を含めた業界再編」、「顧客中心型のアドバイザリーへの移行」の4つが、アジアのウェルス・マネジメント業界における「Next Normal」を支えるテーマとなると考える。さらには、進行中の構造的な変化、特にオンショア-オフショア間の新たな均衡が、今後一層強調されるようになるだろう。

ウェルス・マネジャーは、短期:COVID-19が世界の市場や投資家の行動に大きく影響する時期、中期:短期終了後2~3四半期、長期:その後1~2年間、という3つの時間軸において、4つのテーマを慎重に検討していく必要がある。第二章では、各テーマの要素や個別検討事項について、ウェルス・マネジャーのタイプや関連する顧客セグメントと併せて検討する。また、最終章では、「Next Normal」に向けて、上記の時間軸における各企業タイプの準備状況について、8つの問いを通じて検討するようCxOに提言する。

1 本稿で言及するウェルス・マネジメントとは、10万ドル以上の投資可能な資産を有する個人、世帯、事業に対する投資アドバイザリーサービスを指す
2 McKinsey Global Wealth Pools

第一章
「Next Normal」の推進力となる破壊的影響

COVID-19の急速な拡大により経済活動は大きく停滞している。パンデミックを収束させるには公衆衛生や安全対策が最優先事項となるため、今後の人々の生活のあらゆる側面で劇的な変化が生じることは間違いない。世界各国が行ったロックダウンによるウイルス封じ込め対策は、あらゆる業界に影響を及ぼした。アジアのウェルス・マネジメント業界も例外ではない(図表1)。

アジアの株式マーケットにおける投資家の資産は、2020年2月1日~4月15日の間に約10~15%(2.5~3.5兆ドル3)減少した。ただし、COVID-19の最初の感染源となった中国では、経済活動の急速な低下により2020年1月~2月の工業生産高は前年比13.5%減少したが、感染の抑制に伴い中国市場は活況を取り戻しつつある。アジアの個人金融資産の約35~40%を中国人投資家が占めることを考慮すると、この初期的回復はアジア地域のウェルス・マネジメント業界にとってもよい兆しと言える(図表2)。

3 アジアの主要取引所の合計時価総額は約24.3兆ドル(国際取引所連合の2020年1月時点のデータ)

【図表1】新型コロナウイルスは、アジア市場に、2008年の金融危機や2000年のITバブル崩壊に匹敵する甚大な影響をもたらした
MSCI ACアジア太平洋インデックスの価格変動

新型コロナウイルスは、アジア市場に、2008年の金融危機や2000年のITバブル崩壊に匹敵する甚大な影響をもたらした
※ MSCI ACアジア太平洋インデックスは、オーストラリア、香港、日本、ニュージーランド、シンガポール、中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、パキスタン、フィリピン、台湾およびタイにおける大型・中型株に関する指数
資料: MSCI、チーム分析

【図表2】回復の兆しを見せている中国を除き、アジア市場の投資家のアセットは10~15%目減りしている
アジアの各インデックスおよびMSCI ACグローバルインデックスが示す2020年2月以降のパフォーマンス

回復の兆しを見せている中国を除き、アジア市場の投資家のアセットは10~15%目減りしている
資料: Bloomberg
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