年金運用とマーケットの研究 デンマーク労働市場付加年金(ATP)の運用戦略──平均余命の延伸とインフレへの対応
- ポートフォリオを「ヘッジ・ポートフォリオ」と「投資ポートフォリオ」に分割
- 投資ポートフォリオではリスク・ファクターをベースとした投資アプローチを採用
デンマークの労働市場付加年金(ATP)は、基礎年金を補完する積立方式の年金制度で、2020年6月末の運用資産額は9,179億デンマーク・クローネ(DKK)となっている。
ATPでは運用資産を、年金負債のリスクをヘッジする「ヘッジ・ポートフォリオ」と、市場リスクを取ってリターンを獲得することを目的とする「投資ポートフォリオ」との2つに分けて運用が行われており、積立金の約8割が「ヘッジ・ポートフォリオ」に、約2割が「投資ポートフォリオ」に振り向けられている。
「ヘッジ・ポートフォリオ」は、ATPの年金負債の金利リスクをヘッジしATP年金の支払いを将来にわたって確実なものとすることを目的としており、債券と金利スワップ、その他の債券デリバティブで構成されている。
「投資ポートフォリオ」は、市場リスクをとってリターンを獲得することを目的として運用され、十分な運用収益が獲得できた場合には運用成果の中からボーナス配当が支払われる仕組みとなっている。
ATPの年金額は、積み立てられた拠出総額と運用収入の合計額をもとに、退職時点での平均余命から算出された固定金額が終身年金として一生支払われる仕組みである。ATPが市場リスク運用を実施するのは、平均余命の延伸とインフレ率の高騰という2つのリスクを緩和することが目的である。
年金給付は終身年金として行われるため、加入者の平均余命が退職時の想定よりも伸びると、年金支払いに充てるべきATPの資産額が将来的に不足するリスクが存在する。また、ATPから約束された給付金額は固定額であり、インフレ率などに連動した年金額のスライド制は組み込まれていないため、インフレ率が高騰すると年金受給者の購買力は低下するリスクを持つ。
「投資ポートフォリオ」はこれらのリスクを緩和させるために資産運用を行い、「投資ポートフォリオ」から得られたリターンが、平均余命の延伸による負債の増加分を十分に上回っている場合には、ボーナス配当を実施しインフレ上昇分を補う制度となっている。
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