先物市場では2017年以来の活況

FXcoin 松田康生氏
FXcoin
シニアストラテジスト
松田 康生

ビットコインは約1カ月ぶりに1万ドルを上抜けた。背景として、2020年5月12日に迎えた半減期の影響を指摘する声もある。半減期とはマイニング報酬が半分になることを指し、同時にビットコインの供給が半減されることを意味する。したがって、短期的にはマイナー(採掘者)の採算が厳しくなり、ブロック形成の停滞や手数料の高騰などの混乱が生じるが、長い目で見れば供給減により価格が上昇しやすいとされる。従来のパターンでは半減期後1~2カ月は相場が低迷、2~3カ月後から上昇し始めている。今回もここまでは採算の悪化したマイナーや混乱を嫌気した投資家の売り圧力が目立っており、むしろ半減期を通過したことによる価格上昇はこれからが本番と考える。

こうした供給面の変化に加え、需要面での重要な変化が見られる。大手ヘッジファンドの参入だ。2020年4月、運用額が世界第2位のヘッジファンド、ルネッサンス・テクノロジーズがビットコイン先物市場へ参入するとフィナンシャル・タイムズ紙が報じた。5月には「マーケットの魔術師」ポール・チューダー・ジョーンズ氏が率いるチューダーBVIグローバルファンドでビットコイン先物を最大「1桁台前半のパーセンテージ」で保有する可能性があると金融メディアBloombergが報じ、さらに同氏は米通信社CNBCの取材に、個人資産の約2%をビットコイン先物に投資したとコメントした。

図表は法人の参加者が多いとされるCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のビットコイン先物市場におけるヘッジファンドなど(レバレッジド・ファンド)のポジション推移だ。ロング・ショートともに急増しており、建玉も2017年12月開始以来最高を更新している。個人が中心のビットコイン市場に法人、機関投資家が参入した時に相場は大きく上昇すると言われてきたが、いよいよその第一歩が始まった可能性がある。

CME ビットコイン先物ポジション(ヘッジファンドなど)

「魔術師」がヘッジファンド誘引

従来から機関投資家の参入が取り沙汰されることは何度もあった。暗号資産(仮想通貨)を専門に扱うヘッジファンドも複数あり、最大手のグレイスケールのビットコイン・トラストの運用額は33億ドルに達している。また、今回、両社とも投資対象をCMEのビットコイン先物としているが、ビットコインの現物を保有しにくい機関投資家を受け容(い)れるためCMEの先物やインターコンチネンタル取引所による新会社Bakktやフィデリティのカストディサービスなどが整備されてきており、そのたびに機関投資家の参入期待が高まってきた。未だに米国で承認されていないビットコインETF(上場投資信託)も突き詰めれば機関投資家の資金を呼び込むためのものだ。市場はそうした期待と失望で乱高下を繰り返してきた経緯がある。それなのに何故、今になって大手ヘッジファンドが続々とビットコインに参入してくるのか。

「魔術師」チューダー氏は「グレート・マネタリー・インフレ」のヘッジとしてビットコインにベットしたいと述べている。すなわち、自分はビットコインファンではないが、コロナ対策による巨額の財政出動と中銀による債券買い入れの意味を考慮し、ビットコインを検討する気になったとしている。一足先にコロナ対策の給付金が支給された米国において、同国最大手の交換所コインベースでは面白い動きが観察された。給付金が支給されると、それと同額の1200ドルの入金が交換所に増えたそうだ。つまり、実際に給付金を受け取ると、このお金の出所に思いをはせ、将来の財政とインフレに不安を覚える人が一定程度いるということだろう。

機関投資家参入に足りないインフラを整備してきた反応はいま一つだったが、ここに来て大手ヘッジファンドがビットコインに注目し始めたのは偶然ではない。元ドイツ銀行のデリバティブ・トレーダーで現BitMEX最高経営責任者(CEO)のアーサー・ヘイズ氏は、レジェンドであるチューダー氏らの参入は他のファンドマネージャーの追随を呼ぶとする。投資しないリスクを意識させるからだろう。今後数カ月間のビットコインの上昇余地は大きいと考える。

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