統計データに現れていない経済縮小

井出 真吾
ニッセイ基礎研究所
上席研究員
チーフ株式ストラテジスト
井出 真吾

新型コロナウイルスに大きく揺さぶられた金融市場だが、各国中央銀行による大胆な金融政策や各国政府の大規模な財政政策、世界各地での経済活動の段階的な再開などを背景に株価は急ピッチで上昇した。日経平均株価は2020年3月19日に1万6552円の最安値をつけた後、ほぼ順調に上昇して6月1日には終値で2万2000円を回復した。日本全国での緊急事態宣言の解除や、その後の西村康稔経済再生担当大臣の「再指定は考えていない」との発言も市場の期待を膨らませたようだ。

投資家としては株価が上昇基調を維持するか、せめて高止まりして欲しいところだが、二番底を警戒する声も根強い。二番底の理由として最も多いのは新型コロナウイルスの再拡大だろう。米国では爆発的な感染拡大のピークは過ぎたとはいえ、1日の新規感染者数が約2万人という中で人種差別に関する大規模デモ・暴動が各地で起きた。典型的な密集・密接行為による感染拡大が懸念される。日本でも東京や北九州などで感染ペースが再拡大するなど、予断を許さない状況が続いている。そもそも南米ではピークアウトの気配すら見えていない。

こうした状況で、直近の株高を正当化できるペースで実際の経済活動が回復するか疑問が残る。世界中で失業者が急激に増えたことは言うまでもないが、失業は免れても収入が激減した人、今後の収入が不安定にならざるを得ない人などを合わせると、まだ統計データに現れていない経済の縮小が待ち構えている可能性もある。

例えば日本は百貨店や飲食店をはじめ、ホテルなど宿泊施設、交通機関、美容室に至るまでインバウンド需要の恩恵が大きい。しかし、ある大手旅行業のトップは「インバウンド需要が元に戻るまで1年から1年半は覚悟している」と話す。サービス業の多くが客同士の接触を減らすために座席を離すなどの対応を求められており、“満員御礼”でも売上の激減を余儀なくされる。自(おの)ずと従業員の数を減らすことになり、働き口を取り戻せない人も少なからずいるだろう。それが消費を停滞させる負の連鎖に繋がりかねない。

コロナ禍で置き去りにされていた感もある米中対立も相場の重荷になりそうだ。2020年11月に大統領選挙を控えるトランプ氏は、貿易摩擦、コロナウイルスの責任問題に加えて、香港情勢を巡っても中国を強く牽制(けんせい)している。自由を尊重するアメリカ国民の意識を利用して、中国という“共通の敵” を作ろうとしているように見える。アメリカ国民の世論を味方につけるための発言を繰り返し、マーケットを翻弄(ほんろう)するかもしれない。

有効で安全なワクチンや特効薬が世界中に普及すれば新型コロナウイルスを通常のインフルエンザと同等に扱うことができる。そうなれば事態が一変し世界経済は急速に回復するはずだ。しかし、世界で100種類以上のワクチン開発が進められているとされるものの、初期段階のものが多く、実用には距離があるようだ。年内にも実用化される可能性が伝わったワクチンもあるが、年間の供給量は数十万人分とされており普及のメドすらついていない。

個別業績を丁寧にフォロー

日本では上場企業の2020年3月期決算発表が一巡した。今期の業績予想を「未定」とした企業が全体の6割を超えた一方、「増益予想」は13%にとどまる(経常利益ベース)。「未定」が多い中で「増益予想」とした企業の株価は足元まで堅調さが目立つが、先行きは楽観できない。というのも、直近3年間について検証したところ、2020年度「増益予想」とした企業は、過去に期初予想と比べて期末実績が下振れする傾向があったからだ。2017年度は全体や「未定」「減益予想」の企業が上振れする中で、「増益予想」の企業だけが下振れした。2018・19年度も当該企業群の下振れの大きさが目立つ。

前述のように不確実要因が多い中で、個別企業の業績動向を丁寧にフォローする姿勢が重要性を増している。

2020年度業績予想別の期初予想と実績の乖離率

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