豊富な研究資金を確保する海外大学との競争や、少子化にともなう財源確保のため、大学にとって資金運用は中長期の財政基盤を支える重要なテーマとなっている。資金運用担当者や有識者の声を通じ、大学の資金運用戦略と今後の展望について概観する連載「大学基金の運用戦略」。今回は、2023年度からポートフォリオ運用を開始した愛知県の大同学園を取り上げる。校舎などのインフラ更新に備え、国内外の株式・債券に分散する運用を進める狙いとは。大同特殊鋼で財務や企業年金運用に携わった経験を持つ武藤大理事長に、運用方針と今後の課題を聞いた。
「運用しなくてよい」から方針を転換

理事長
武藤 大氏
資金運用に取り組み始めた理由は。
私が大同学園に着任した2019年当時は、日本銀行の金融緩和政策の下で金利が極めて低く、株価も低迷していた。無理に高い利回りを求め、よく理解していない金融商品に手を出して損失を出すくらいなら、定期預金や信用力の高い債券を中心に運用すればよいと考えていた。
考え方が変わったのは、金利のある世界への移行が見え始め、人手不足などを背景に物価が上昇し始めた頃だ。インフレ下では対策をとらなければ実質的な購買力が低下してしまう。
具体的なきっかけは、老朽化した校舎の解体と新校舎の建設だった。新校舎の建設費は、旧校舎を建てた当時の2~3倍に膨らんだ。建設費だけでなく、解体、廃材処理、場合によっては土壌への対応にも費用がかかる。将来の施設更新に備えるには、過去の取得価格を基準に資金を準備するだけでは不十分だと実感した。
学校法人の資金には、どのような特徴があるのか。
製造業などの企業は、設備投資や仕入れなどで先に資金を支出し、製品やサービスを販売した後に代金を回収する。対して学校経営では学納金などを先に受け取ることが多い。年度初めには手元資金が厚くなるが、そのうち6~7割程度は同じ年度の人件費や教育研究費として支出される。一方で、校舎やICT機器などのインフラ更新には数年から数十年に一度、まとまった費用が必要になる。
そこで、「いつ、何に、いくら必要になるのか」を長期の資金計画で見通し、日常の運転資金や近い将来の設備投資資金と、10年以上使わない資金を切り分けた。後者については、将来の施設更新に必要な購買力を維持するために運用するという考え方である。
50年先の施設更新を見据え、約80億円を長期運用
インフレを見据えて、どのように資金計画を立てているのか。
本学園では、すべての校舎などのインフラについて、何年後に補修や建て替えが必要になるか、その際にどの程度の費用がかかるかを50年程度先まで見通している。奨学金や研究資金などは、原則として毎年度の収入の中で賄い、将来の施設更新用の資金を長期資金と位置付けている。
財務健全性を考える際に、まず目安としているのが、減価償却累計額以上の金融資産を持つことである。減価償却累計額は、将来その金額をそのまま支出するという意味ではないが、これまで使用してきた固定資産に対応する更新需要を考えるうえで、1つの尺度になると見ている。
そのうえで、10億円で建てた施設が、10年後にも10億円で建てられるとは限らないので、減価償却累計額に将来のインフレ分を上乗せした金融資産を確保することを目指したいと考えた。
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