• 危機が招来する質への逃避を通じた急落リスク
  • 米国財務省による中間選挙に向けたドル安誘導

危機が招来する質への逃避を通じた急落リスク

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

筆者の中で、ドル円相場がダウンサイドに大幅に調整されるかもしれないという懸念が日増しに強まっていきた。その背景には、第一に、質への逃避による円キャリトレードの急激な巻き戻しの懸念がある。

円安は、その主な原動力が円キャリートレードやわが国家計部門による資本流出であるという点において、投資家のリスク選好に多くを負っている。したがって、危機の到来は、リスク回避によるドル円相場の急落を招来する。1998年のロシア危機に際しては、ヘッジファンドによる円キャリートレードの急激な巻き戻しが、1日だけで13円ものドルの急落を招いた。

商品市場では、金に加えて原油が下落に転じている。株式市場でもハイテク株の下押しが目立ち始めた。歴史的に、こういった資産の下落は、質への逃避の先行指標であることが多い。金融市場では、イラン戦争終結を受けた安堵感が広がっているが、AIバブルやプライベートクレジットに端を発した金融システムリスクへの懸念は依然として燻っている。中東原油への依存が高いアジア経済を発信源とする金融危機の発生を指摘する向きもある。ロシア経済も、ウクライナ戦争によって疲弊しているように見える。金融市場は、重大な危機の到来を見逃してはいないだろうか。

米国財務省による中間選挙に向けたドル安誘導

第二に、米国の通貨政策転換への懸念もある。1995年のルービン財務長官の就任を機に米国は強いドル政策に転換した。2002年のオニール財務長官の更迭以降、歴代の財務長官は為替相場への非介入スタンスを強め、彼らの発言もほとんどが「強いドル政策に関する決まり文句」を述べるにとどまった。

ところが、2025年にトランプ大統領が導入した相互関税が不発に終わると見るや、筆者には、ベッセント財務長官による為替市場への介入姿勢が強まっているように感じられる。

2026年1月には、米財務省によるニューヨーク連銀を通じたレートチェックが久方ぶりに実施された。同財務長官は、同年6月の講演後に質疑応答において、為替相場に関して極めて饒舌であったと見ることができる。同氏は、「人々が強いドルについて語るとき、それはブルームバーグ・ドル指数のことではないと思う」と述べるとともに、低コストの製造業国による自国通貨の抑制は米国に不利に働く可能性があるともコメントしている。

2003年にスノー財務長官が、中国に対して人民元の実質的な切り上げを迫った背後には、2004年のブッシュ大統領再選に向けて米国製造業者の票集めを目論むローブ上級顧問の指示があったと言われている。2026年11月の中間選挙に向けて、ベッセント財務長官によるドル安誘導姿勢が強まることはないだろうか。円相場が続落するなか、最近になって、人民元の上昇基調が強まっていることも気になるところである。

■強まるドル円・ドル人民相場の跛行性
強まるドル円・ドル人民相場の跛行性
出所:米連邦準備制度

マスメディア中心にこのところ強まっている1ドル=200円説は、大相場の終わりを暗示しているかもしれないと気に病んでいるのは筆者だけだろうか。