「満期保有への転換」でもリスクを排除しきれない

東洋大学
国際学部 グローバル・イノベーション学科 教授
野崎 浩成1986年慶應義塾大学、1991年エール大学経営大学院修了。博士(政策研究、千葉商科大学)。埼玉銀行、シティグループ証券などを経て現職。著書に『教養としての「金融&ファイナンス」大全』(日本実業出版社)など多数。2015年まで10年連続日経アナリストランキング1位。

超低金利環境が続いていたこれまでは、銀行は国債の運用において評価損が表面化する心配をあまり意識せずに済んでいた。しかし「金利ある世界」に移行しつつある現在、地銀の債券運用損失の拡大を報じる最近の新聞記事などを見ると、もはや金利上昇リスクを看過できない状況が現実味を帯びてきたと言える。

金利上昇に直面する銀行がまず検討する対応策は、教科書的には大きく2つある。一つは保有債券の残存期間を短くする「デュレーション(金利感応度)の短期化」である。実際に、大手銀行は早い段階から債券ポートフォリオのデュレーション短縮を進めており、一部の地域銀行も追随し始めている。例えば横浜銀行などは比較的早期に長期債の保有比率を引き下げ、ある程度の評価損を計上する決断を下している。

もう一つは、保有する長期債を「満期保有」に区分する銀行がある点である。金融機関の勘定区分上、債券などの資産はトレーディング勘定(短期売買を前提とした特定取引勘定)とバンキング勘定(銀行勘定)に分類される。通常、銀行が債券を保有する際には後者の勘定で行い、金利変動による時価評価損益が資本勘定に反映される。一方で満期保有を目的とする債券についても後者に計上されるが評価損益は資本勘定に反映されない。満期保有に区分することで、債券価格の下落による評価損を帳簿上は回避できる。

しかし、満期まで売らないから安全という見かけ上の健全性に頼る戦略には危うさも孕む。まず経済的な価値の視点では、満期保有は大きな機会損失を伴う。機動的な売買ができず、たとえ市場金利が上昇して手元の債券に含み損が出ても、それを売却して新たな高利回り資産に乗り換えることができないためだ。

とりわけ見逃せないのは、満期保有という名目のもとで表面化を免れている含み損に潜在するリスクである。満期保有目的に区分された資産は時価評価の対象外となるため、帳簿上は損失が存在しないように見えるが、実態としては明確にリスクを抱えている。短期的には損益への直接的な波及を抑え、経営の安定に寄与する側面もあるが、ひとたび金利が急騰すれば、こうした含み損が一挙に顕在化し、銀行の信用不安に直結する恐れがある。

「帳簿にないリスク」が顕現したSVB破綻

この「見えない損失」のリスクが現実のものとなった象徴的な事件が、2023年3月に米国で起きたSVB(シリコンバレー銀行)の経営破綻である。同行は資産の半分以上を長期債券で運用していたが、それらのほとんどを満期保有区分に置いていた。

保有債券の大半はエージェンシー債であり、信用リスクは極めて低い安全資産であったが、急速な金利上昇局面でその「安全資産」に巨額の評価損が発生し、大量の預金流出に直面した同行は身動きが取れなくなった。

満期まで売却しない前提で抱えていた債券を、資金繰り維持のためにやむなく売却せざるを得なくなり、多額の損失が一気に顕在化して自己資本を食い潰し、破綻に追い込まれた。この破綻劇は金利リスク管理の盲点を突きつけ、各国の金融当局や銀行経営者に対し警鐘を鳴らした事例と言える。

しかしそもそもなぜ、このような含み損を抱え込む事態が許されてきたのだろうか。私の考えでは、SVBを含む近年の金融機関の債券損失拡大の背景には、金利リスク管理に対する現在の規制の枠組みそのものが関係している。

銀行勘定の金利リスクはバーゼル規制の心柱にあらず

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