多くの日本企業が、株主からは企業価値向上につながる革新的なイノベーションを求められ、経営資源の投下先を模索中だ。しかし、個社単位の自助努力でスピーディーに事業変革するのは容易ではない。そこで注目を集めているのがM&A(合併・買収)だ。新しい技術やサービスを開発する新興企業との連携で一段の成長を目指す現状と今後の見通しについて、有識者に話を聞いた。
海外案件では豪企業狙いが増える。大企業による敵対的買収が相次ぐ
近年のM&A市場拡大の要因は主に3つある。1つ目は、従来から言われている「事業継承問題」だ。M&A仲介サービス大手のストライクの代表取締役社長の荒井邦彦氏は、「特にオーナー企業では、規模の大小を問わず事業承継問題を抱えている。実際、当社の案件の6割は事業承継ニーズの相談からスタートしている。経営者の高齢化は進む一方で、少子化問題や価値観の変化などから、親族内での承継の割合は低下している」と話す。
2つ目は、「資金調達環境の緩和」だ。「日本銀行による金融緩和を背景に、金融機関は貸出残高の減少および預貸率の低迷が続いている。日本企業の資金余剰は拡大しており、調達金利コストも安く、環境は買収資金を用意しやすい」(荒井氏)。3つ目は、「法改正」だ。1997年の独占禁止法の改正による持ち株会社の解禁を契機に、1999年の株式交換・株式移転制度の導入、産業活力再生法の制定をはじめとしたM&Aに関連する法改正の影響を受けて、M&A件数は増加していった。2006年の会社法の施行や2007年の三角合併の解禁など、ここ30年間はM&Aを促進する法改正が続いている。
そもそもM&Aの目的は、売却側には事業承継対策や創業者利潤の獲得、エグジット、事業の選択と集中、企業再編などが挙げられる。これに対して買収側は、既存事業の規模拡大や新規事業の獲得、人材や技術の確保などが狙いだ。「当社の案件の比率で言うと、買収希望の企業数は売却希望案件数の約300倍に上る。金融緩和が続く間は、買収希望の企業数は増え続けるだろう。大企業が子会社を売却する際は金額面が最も重要な要素となるが、オーナー企業の場合、自社事業の成長が見込める、従業員や既存顧客が安心できるなど、様々な条件を吟味した上で譲渡先を決める傾向が強い」(荒井氏)
この記事は会員限定です。
会員登録後、ログインすると続きをご覧いただけます。新規会員登録は画面下の登録フォームに必要事項をご記入のうえ、登録してください。