金利変動による含み損は実現しなければ問題にならず?

S&Pグローバル・レーティング
金融法人および公的部門格付部 ディレクター
久保 英次
2016年入社。商業銀行、信託銀行、証券会社、金融会社、政府系金融機関の信用力分析を担当。入社以前はムーディーズ・ジャパン金融機関グループにおいて、主任アナリストとして信用分析業務に従事。それ以前は主にPwC Japanにて投資銀行・証券会社、不良債権投資特別目的会社、保険会社の法定監査証明業務等に携わった。

金融機関は多様なリスクを管理することが求められるが、株式リスクなどの市場リスクに比べて、「金利リスク」はリスク管理上の取り扱いがやや独特である。

金利変動による純資産の変動は、計測自体が難しい上に、金融機関によってその認識や捉え方が一貫していない。一部には、「債券を満期まで持ち続け、含み損が実現しなければ金利リスクは問題にならない」との見方もある。こうした見方は会計基準や自己資本規制における金利リスクの取り扱いとは無関係ではない。

会計上、満期保有目的という保有区分を選択することで含み損を貸借対照表に計上しないことができる。また、規制自己資本比率では銀行勘定に分類される資産に係る金利リスクは計測対象外である。規制上は第二の柱においてIRRBB(銀行勘定の金利リスク)等の規制はあるものの、実効性はあまり高くないのが現状である。こうした制度的背景も、金利リスクの軽視につながる要因になってしまっている。

しかしここ最近、急激な金利上昇に伴い、金融機関の金利リスク軽視が大きな問題になるケースが連続した。例えば2023年に経営破綻した米地銀シリコンバレーバンク(SVB)は、金利上昇を受けて同行の債券運用での損失への懸念が一気に広がり、急増した口座解約に対応する現金を確保するため、保有を継続するはずだった債券の売却に追い込まれた。結果、持ち越せるかもしれなかった債券運用の巨額の含み損が現実化し、経営破綻へとつながった。

そして日本では、2024年、農林中央金庫(以下、農林中金)がポートフォリオの大半を占める外債処分などに伴い2024年度決算で約1.5兆円の当期純損失を計上する見込みであることを発表した。

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