近年、日本の機関投資家の間に急速に浸透してきたオルタナティブ投資。中でも、伝統的資産に対して比較的高いインカムゲインが安定的に獲得できる期待から、プライベートデット投資への関心がとりわけ高い状態が続いている。案件の裾野も拡大する同アセットクラスは、このまま日本の機関投資家のオルタナティブ投資の中心的存在になるだろうか。有識者の目線を通じて、プライベートデットの最新動向と今後の展望をレポートする。
金利水準、コベナンツ、企業業績など良好な投資環境
銀行を介さずに、ファンドなどを通じて未上場の中堅企業に直接融資するPD(プライベートデット)市場が拡大している。
世界金融危機後の銀行に対する規制強化により、信用力の低い企業への銀行貸し出しが縮小したことや、長らく続いた低金利環境下において投資家が高利回りを追求してきたことがその背景にある。
PDの使途としてはM&A(合併・買収)や借り換え、設備投資などがあり、投資期間は5~8年程度が一般的とされる。中でもその中心となるのがダイレクトレンディング(DL)で、M&AのスポンサーとなるPE(プライベートエクイティ)ファンドが出資する企業向けに融資するケースが多い(図表1)。
三菱UFJ信託銀行 運用商品開発部 プライベート
アセット運用室 プライベートアセット運用課 シニアプロダクトスペシャリストの小畑真哉氏は、グローバルなDL市場の動向について「2022年来、株式市場が大きく下落する中、新規M&A件数の減少に伴ってDLの件数も減少傾向にある。
しかしながら、借り換えニーズも含め依然として投資機会は顕在であり、条件面、企業業績ともに良好だ」と解説する。DLは変動金利が一般的で、足元では利上げに伴うベース金利の上昇に加え、クレジットスプレッドも厚い。
「スポンサー型のDLにおいて、金利上昇の影響によりデットの調達コストが高まることから、PEファンドは借り入れの量を減らしている。他方、融資側としても信用リスクが高まる環境下においては高い水準での貸し出しに慎重になる側面もあり、結果的に以前に比べてエクイティのクッション部分が厚くなっている。さらに、融資の契約時に規定・誓約するコベナンツ(財務制限条項)の条件も貸し手優位な状況だ」(小畑氏)。
2023年1~3月の企業業績を見ても、全体として利益が増加傾向にある。ただし、高い金利水準が続き、企業の利益成長がそれに追い付かなかった場合には、利払い不能になるケースや条件緩和に応じるケースが増加するだろう。今後はセクターに加えて、個別企業ごとに業績のばらつきが出てくるとみられる。
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