インフレ、金利の不確実性やオルタナ資産の高まるボラティリティなど資産運用を取り巻く環境が複雑化の一途を辿るなか、機関投資家にとって「分散ポートフォリオ」の構築は引き続き必須課題だ。しかし、予期せぬ市場環境の変化やイベントの発生により、意図した通りのリスク分散が効かなくなるケースもあるだろう。金利復活下で真に機能するポートフォリオの最適解を探る。
過去に採用した戦略は、前提条件の変化を踏まえ、改めて見直す必要がある

投資評価本部
資産運用コンサルティング事業部
シニアコンサルタント
長屋 善智氏
機関投資家の投資環境を振り返ると、「分散が効きにくい」局面は確かに存在した。格付投資情報センター 投資評価本部 資産運用コンサルティング事業部 シニアコンサルタントの長屋善智氏は、株式と債券の分散効果が抑制された局面を2つ挙げる。
一つは、2016年から2024年まで続いた日銀のYCC(長短金利操作)下である。長期金利がゼロ近傍に抑え込まれたことで、株価下落時に債券のリターンが上昇するという逆相関の効果が発揮されにくかった。
もう一つは、FRB(米連邦準備理事会)による急ピッチな利上げが続いた2022年だ。金融引き締めがバリュエーション低下を通じて株式市場の重しとなる一方、債券価格も大きく下落し、結果として株式、債券ともに不調となった。
その後、足元の環境は大きく変わった。2024年にYCCが終了し、金利は再びファンダメンタルズに沿って動く力を取り戻し始めた。リスクオフ局面において株式と債券の分散効果が機能しやすい地合いが整いつつある。
長屋氏は「各資産クラスに期待する役割そのものは投資環境の変化で変わるものではないが、その役割を発揮しやすい外部環境かどうかは変化する。したがって、過去の課題認識を前提に採用した戦略や資産については、その課題が解消されるなど前提条件が変化しているのであれば、足元の環境と中期的な見通しを踏まえて見直す必要がある」と説明する(図表1)。

みずほ第一フィナンシャルテクノロジー ソリューション開発グループ フィデューシャリーマネジメント部 部長の高達英成氏も、以下のように語る。

数理コンサルティング・データアナリティクスグループ
金融・公共法人アドバイザリー部 副部長
石原 龍太氏(左)
ソリューション開発グループ
フィデューシャリーマネジメント部 部長
高達 英成氏(右)
「従来のアセットアロケーションは、『低インフレ・低金利の長期継続』『株式・債券の安定的な負の相関』『グローバル化の進展によるコスト低下』『技術進歩が徐々に織り込まれる』といった前提のもとで組み立てられてきた。しかし現在は、世界的なインフレ、日本の現役世代にとって初めての本格的な金利上昇局面、地政学リスクによる相関構造の不安定化、さらにはAI(人工知能)による加速度的な生産性向上──など、従来の前提を大きく揺るがす変化が同時進行している。こうしたレジームチェンジは、負債評価の前提や資産・負債の関係そのものに大きな影響を及ぼし得る。そのため、現行の機関投資家の政策アセットミックスや基本ポートフォリオが想定している前提が引き続き妥当かどうかについて、これまで以上に丁寧に確認していく必要がある」(高達氏)。
2026年度の国内債券の中期期待収益率は前年1.0%から1.5%に上昇
まず年金基金を例に取れば、基金全体のアセットアロケーションを定める政策アセットミックスの見直しは、通常3~5年の財政再計算サイクルに沿って行われる。多くの場合、総幹事(信託銀行・生命保険会社)やコンサルティング会社が「金融変数(中期期待収益率)」を基に年金ALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)の観点から目標リターンを設定する。
そのうえで、各資産の期待収益率を積み上げ、目標リターンを達成しながらリスクが最も低くなるように資産配分を最適化する。2026年度時点の各資産の中期期待収益率(信託銀行4社の単純平均値)では、例えば国内債券は前年度比0.50ポイント上昇の1.50%と大きく改善している。2024年度から2025年度にかけても0.32ポイント上昇している。
2024年度時点で国内債券の期待収益率を0.68%程度と置いて政策アセットミックスを策定していた場合、資産配分を変えていなければ、資産全体の期待収益率は当初より高まることになる。
「低金利環境下では、機関投資家にとって『インカム不足』が大きな課題だった。利回りを補う目的でクレジット資産や新興国債券を組み入れたり、金利上昇を警戒して債券アンコンストレインド戦略を増やしたりすることには明確な合理性があった。しかし、国内債券の期待リターンが高まった結果、必要としていたインカムを債券だけで確保できるのであれば、さらなるイールド・ハントが必要かは再考したい。資産全体の期待収益率への国内債券の寄与が高まったため、株式比率を落とす帰結になるケースも非常に多い」(長屋氏)。
ここで長屋氏が注目を促すのが、債券の「面積」である。株式が大きく下落する局面で債券が株式と逆方向に動いたとしても、ポートフォリオ全体に占める債券の比率が小さければ、分散効果は限定的になる。逆にいえば、債券の比率が一定程度確保されていれば、株式下落時のクッションとして機能しやすい。単に期待リターンの上昇だけではなく、「面積を戻す」ことも選択肢として検討したい。
他方で高達氏は、政策アセットミックスの定期的な見直しを行うにあたり、過去データに基づく最適化だけでなく、複数の将来シナリオに対する頑健性まで含めて検証しておくことが不可欠だと説明する。
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