機関投資家・金融プロフェッショナルのための情報サイト「J-MONEY Online」は2020年7月27日、同サイトのオープンを記念してオンラインカンファレンスを開催した。講師の森田アソシエイツ代表、ワールド・ゴールド・カウンシル顧問の森田隆大氏は、「アフターコロナ時代の運用戦略~金(ゴールド)市場に何が起きているのか~」と題して、金価格上昇の背景や今後の見通しを語った。当日の講演内容の概要を紹介する。

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リーマン・ショック直後とは投資マネーの性格が異なる

森田 隆大氏
森田アソシエイツ代表
ワールド・ゴールド・カウンシル顧問
森田 隆大

金価格の過去5年のチャートを見ると、しばらくの間は1トロイオンス1200~1350ドルのボックス圏で推移していた。ただし、米中貿易の摩擦の激化などを契機に投資環境の不確実性が上昇した2019年7月あたりから、金価格は上昇に転じた。2020年に入り新型コロナウイルスの世界的感染拡大で不透明感がさらに強まり、足元の金価格の上昇ピッチは加速している。

現在の金価格上昇の大きな要因は「投資需要の増加」だ。特にETF(上場投資信託)の2020年第1および第2四半期の資金流入量を足すと、重量で約734トン、金額で4.5兆円程度と過去のどの1年間より多かった。つまり、過去最高の流入量を半年で記録したのである。

2008年のリーマン・ショック後は、安全な資産を求める逃避資金が金市場に流れ込んだ。そのため、2013年以降にマーケットが落ち着くとこれらの資金は金市場が出ていった。しかし、ここ数年の金ETF市場の動向を見ると、金価格が上がっても下がっても残高が積み上がる傾向がうかがえる。これは長期の投資家が、様々な「リスクヘッジ」の役割に期待して投資しているため、マーケット環境の不確実性が構造的に低下したと明確に判明しない限り、金市場から出ていくインセンティブがあまりないことを示している。リーマン・ショック後と現在では、投資マネーの性格が異なるといえるだろう。だからここ数年は金価格に関わらず、金ETFの残高が伸びているのである。

金は様々なリスクに対応できる。例えば「分散リスク」。図表は、世界の株価の動きに対するTOPIX(東証株価指数)および金の相関をまとめたものだ。金は世界の株価が大きく上昇(上の棒グラフ)、または通常の範囲内で動いているとき(中間の棒グラフ)には、相関性はあまり見られない。一方、世界の株価が大きく下落したとき(下の棒グラフ)は逆相関が広がっている。金は株価に対してきちんと投資分散効果が得られることを示している。

世界の株価とTOPIXおよび金の相関
*1971年1月~ 2019年12月の円建て週次リターンに基づく。上の棒グラフはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの週次リターンが2標準偏差を超えて上昇した場合の相関係数。中間の棒グラフは対象全期間の無条件下の相関係数。下の棒グラフはMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスの週次リターンが2標準偏差を超えて下落した場合の相関係数
出所:ブルームバーグ、ICEベンチマーク・アドミニストレーション、ワールド ゴールド カウンシル

主要資産との相関性が低いことは、テールリスク対策としても有用であることを示している。そのほか、インフレに強い実物資産であることや、米ドルと逆・無相関な特徴から各国の中央銀行は外貨準備における通貨リスク対策として重宝している。

増える中国とインドの中間層、宝飾需要の盛り返しに期待

年金などの機関投資家の間には「金は利息を生まない」と敬遠する向きも根強い。しかし、マイナス金利環境が長引いていることから、金融商品の収益性を図る際には利息よりもトータルリターンを重視する投資家が増えているようだ。2019年末時点の年平均リターンで見たとき、金は過去5年間(約3%)よりは過去10年間(約6%)、過去10年間よりは過去20年間(約10%)と投資期間が長くなるほど堅調なリターンを挙げている。トータルリターンで見たら一定のパフォーマンスが期待できると考える機関投資家が増えていることも、近年の金価格のサポート要因の一つといえるだろう。

金の3大需要家は中国、インド、中央銀行だ。中国とインドの宝飾需要は新型コロナの都市ロックダウンで一時的には減っているものの、2030年までは中間層が増えるというデータもあることから、今後の盛り返しが期待できる。中央銀行の金購入は外貨準備における通貨分散が主な目的だが、目標達成のメドが立っている状況でもなく、こちらも継続性が見込まれている。