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国内投資先の減少で海外シフトが進む

J-MONEY2018冬号 注目記事

投資対象としての「不動産」の可能性

「私募REIT」を核に拡大
国内投資先の減少で海外シフトが進む

1990年代初めのバブル崩壊のトラウマでアレルギーすらあった「不動産」に対し、機関投資家の見る目が変わってきた。不動産投資マーケットの現状について関係者に話を聞いた。(工藤晋也)

キャピタル狙いからインカム期待へ
投資期間も長くなる

 歴史的な低金利を受けて、債券や株式に代わるオルタナティブ資産の存在感が高まっている。オルタナティブ資産といえば、ヘッジファンドなどが挙げられるが、三井住友トラスト基礎研究所が機関投資家に実施したアンケート調査で一番人気だったのが「不動産」だ。投資理由は、「安定的なインカムゲイン(分配金)の確保」が最も多く、「分散投資効果」、「リターンの向上」と続く。

 「かつての機関投資家はキャピタルゲイン目的で不動産に投資していたが、昨今は3~4%程度のインカムが期待できる安定的なアセットクラスと目されている」と、PGIMリアルエステート・ジャパンマーケティング・グループ エグゼクティブ・ダイレクターの有村政基氏は話す。

 インカム狙いの運用スタンスに変わったことから、「以前より投資期間は長くなった。リーマン・ショックを経てレバレッジ水準も低下傾向にある。アンケート調査でもレバレッジ水準は『30%以上~40%未満』が回答のボリュームゾーンになっている」と三井住友トラスト基礎研究所の私募投資顧問部副部長 主任研究員の前田清能氏は語る。

 とはいえ、米国などのように債券や株式に次ぐ第3のアセットクラスまでには至っていないようだ。「海外機関投資家の多くは、不動産を単独のアセットクラスと見ているが、日本ではオルタナティブ資産の一つに過ぎない」と有村氏は明かす。

バーゼル規制におけるリスク・ウェイトが低い

 機関投資家による不動産投資手法として、最も引き合いが強いのが私募REITだ。三井住友トラスト基礎研究所のアンケート調査でも、年金基金、機関投資家(銀行や保険会社など)ともに私募REITの比率が年々拡大している(図表)。

 私募REITが選ばれている理由はいくつかある。まずは不動産私募ファンドにも当てはまるが、非上場のアセットクラスのため、マーケットの影響による価格のブレが抑えられることと、オープンエンド型なので運用期間が定められておらず、エグジット時の市況を気にしなくて済むことだ。加えて、3~4%前後のインカムが期待できることも背景にある。

 前田氏は、「バーゼル規制におけるリスク・ウェイトの相対的な低さ」を理由に挙げる。「条件にもよるが、一般にクローズドエンド型の不動産私募ファンドより私募REITのリスク・ウェイトが相対的に低いことから、運用利回りを確保しつつ高い自己資本比率を求められにくい点が評価されている」からだ。

 三井住友トラスト基礎研究所は、不動産私募ファンドの市場規模を約15兆8000億円(2017年6月末時点)と推計する。不動産証券化協会の調べでは、私募REITの資産総額は2兆3500億円(2017年9月末時点)となっていることから、「不動産私募ファンド市場全体では15%程度に過ぎないが拡大基調にある」と前田氏は見ている。

 一方、最近は投資先の減少という問題が浮上している。三井住友トラスト基礎研究所 私募投資顧問部 主任研究員の米倉勝弘氏は、「主に債券の代替として相対的に高い利回りを求める機関投資家の資金が向かっていることと、空室率の低下によってデベロッパー自らが不動産を継続保有するようになったことから、優良な物件が市場に出回りにくくなっている。機関投資家のドライパウダー(待機資金)もかなり増えている」と実情を明かす。

オフィスと都市型商業施設に投資範囲を限定

 もちろん、投資先が全くないわけではない。東京海上アセットマネジメントの私募REITでは、「中長期に安定的な利回りを実現していくため、人口動態も踏まえて東京都内や大都市圏、さらにコンパクトシティー化が進む政令指定都市のなかで、テナント需要が見込める優良な物件を厳選しながら購入している」と不動産投資開発部シニアマネージャーの尾嵜真孝氏は話す。

 同社の私募REITの特徴は、投資範囲をオフィスと都市型商業施設に限定している点だ。企業業績によっては収益の上積みが見込めるオフィスと、日々のキャッシュフローをベースにした収益源を持つ都市型商業施設を組み合わせることで、中長期に安定的なインカムが得られるコア型の私募REITを目指している。「東京海上グループの一員であることと、継続的な取引関係によってあらゆるルートから物件の紹介がある。このなかから安定的なテナント需要が期待できる物件を厳選している」と尾嵜氏は語る。

2016年頃から欧州不動産の注目度高まる

 不動産投資におけるもう1つの目立った動きが、投資家の「海外シフト」の本格化だ。国内不動産マーケットは、人気の高まりと投資先の減少によって以前より利回りが低下したことから、「ここ数年、海外に目を向ける機関投資家が増えている。とくに保守的な運用姿勢をとる傾向にある保険会社も海外不動産を検討し始めた」と東京海上アセットマネジメント 海外不動産投資部長の川野真治氏は語る。

 海外不動産投資の対象は、従来は米国が主流だったものの、FRB(米連邦準備理事会)の利上げ路線への政策転換によってヘッジコストが上がり、「ヘッジコスト後ではむしろ欧州不動産のほうに妙味が出てきており、2016年頃から注目度が上がっている」(川野氏)

 ただし、日本の機関投資家にとって欧州不動産は、米国不動産に比べてなじみが薄く、各国によって法規制や税制も異なる。「個別の国・地域を対象にするより、ファンド・オブ・ファンズの形でグローバルに分散投資できるプロダクトがおすすめだ。当社では、オープンエンド型の『東京海上グローバルコア不動産ファンド(GCP)』を提供している」と川野氏は話す。

 GCPには、米国や欧州の不動産だけでなく、2016年に世界で最もパフォーマンスがよかったオーストラリアの不動産も組み込まれている。「不動産は年ごとにパフォーマンスがよい国・地域が変化する。その点、GCPは先進国・地域の不動産をカバーしている。オーストラリアは人口が伸びており、アジア・太平洋地域では比較的ローリスクな投資先でもあるので、グローバル分散を考えるうえでは外せないマーケットといえる」(川野氏)

 GCPの特徴は、ポートフォリオのなかに物流セクター特化型など、投資先を限定したファンドを組み入れていること。特定の分野で際立った運用力を持つファンドを組み入れることでリターンの底上げを図っている。もう1つは、不動産などの実物資産に特化したコンサルタントのタウンゼント社が投資助言をすることだ。

 「一般的にファンド・オブ・ファンズはフィーが割高なイメージがあるが、GCPでは、タウンゼント社が助言した投資先ファンドの一部のフィーが割引されるため、ネット(純額)で見ればリーズナブルだと思う。日本の私募REITはオフィスセクターに偏りがちだが、海外不動産は商業、物流、住宅などセクターごとに豊富な投資機会があるため、セクター分散も容易だ」と川野氏は話す。

総借入残高は「賃料収入の5倍」
情報開示スタンスに注意

 有村氏も「海外不動産に関心を持つ機関投資家が増えている。なかでも米国のコア型戦略の人気が高い」と打ち明ける。米国は世界最大の不動産投資マーケットであり、日本の機関投資家にとって安心感があるうえ、コア型戦略であれば安定的なインカムゲインが期待できるからだ。

 米国のコア型戦略で最も長いトラックレコードを持つのが、プルデンシャル・ファイナンシャル・グループの不動産投資部門であるPGIMリアルエステートの運用戦略だ。運用開始は1970年で、2008年のリーマン・ショックなど、いくつもの危機を経験してきた。「危機から学んだ教訓が当社の戦略に反映されている」と有村氏は語る。

 例えばリスク管理指標では、一般的にはレバレッジの目安として総資産に占める有利子負債の比率をあらわす「LTV(ローン・トゥー・バリュー)」を取り入れる。だが、仮にLTVを30%に定めていても万一の危機時には価格が想定以上に大きくぶれてしまう。そこで同社は短期的にはあまり動かない賃料に着目。「総借入残高は賃料収入の5倍まで」という新たな基準を設けた。さらにテナントが決まっていないオフィスや商業施設の開発案件には投資しないなど、リスクを抑えた慎重な運用を心がけている。

 「米国不動産のコア型戦略として最大級の規模を持つ」(有村氏)ことも同戦略の特徴になる。優良コア型物件は大都市圏に集中しており、自ずと不動産の取得価格が高額になるため、資金的な余力のある大きなファンドのほうがより多くの物件に分散投資ができるからだ。

 不動産は地域性が強い。それぞれの地域に精通しているかどうかが、魅力的な案件の発掘につながる。同社の場合、全米にソーシング(発掘)担当者がいることから、自分たちで案件を発掘するとともに、ローカルのビジネスパートナーの協力で案件を紹介してもらうことも少なくない。

 「この案件発掘力が大きな強みだ。競争入札ではなく、相対に近い形で物件を購入できるので物件の取得コストも割安に抑えられる。日本の機関投資家にも米国不動産投資の魅力に気付いてもらい、ぜひ運用の果実を受け取ってほしい。我々も適切な投資の判断が下せるように、商品の仕組みなどのほか、市場に関する情報を含めて投資家側に立ったサポートに努めていきたい」と有村氏は語る。

 国内機関投資家がポートフォリオ戦略を考えるうえで、不動産は欠かせないパーツになっている。その一方で不動産の取得価格の上昇により、期待通りの利回りを確保するのが難しくなっている。こうした現状に対して前田氏は、「4%のインカムを実現しているからという理由だけで魅力的と判断すべきではない。なかにはLTVを上げて、4%程度のインカムを確保しているところもある。投資対象の中身をきちんと見てほしい」と警鐘を鳴らす。

 また、米倉氏は「ファンドによって提供される情報が異なるので、モニタリングに必要な情報が提供されているか否かも投資判断項目の一つとして注目してほしい」とアドバイスする。