クォンツ運用をおもふ【第4回】 オルタナティブデータが秘める可能性と資産運用業への応用
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【第1回】データだけではなく、マーケットドリブンのルール作りを
【第2回】接近し合うクォンツ運用とジャッジメンタル運用の整理と融合
【第3回】我々の直感的誤謬を補正する「理の力」
投資家に接近しつつあるオルタナティブデータ
第4回は標題の観点からクォンツ運用をおもふ。資産運用業界においてもオルタナティブデータ(※)はすっかり耳馴染みのある言葉になった。人工知能ブーム三度の到来に伴い、2016年頃から盛り上がりを見せてきた印象を私は持っている。
当時、衛生データなどをはじめとする特殊なオルタナティブデータは販売単価が高く設定され、エクスクルーシブな形態、すなわち投資家を限定して販売されていた。しかし、ここ2〜3年ではどうやらエクスクルーシブな形態は一転し、販売単価は引き下げの傾向にあるよう見える。背景には、ケインズの美人投票がキーワードとしてあるようだ。
ケインズの美人投票とは、ケインズ経済学派の礎を築いたイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズの言葉である。簡単に述べると、投資する銘柄選定は自分の好みではなく、市場参加者の多くが買いたいと思う銘柄を買うことが利益獲得の上で重要であるということを述べている。
この市場の第一基本原理とも呼べる言葉に鑑みると、一部の限定された投資家のみ取り扱いが許されたデータに希少性があろうとも、日々複数のファクターの影響を受けながらテーマが移りゆくダイナミックな市場で、その希少性がどれだけのアルファを生み出しているか計算する上で困難であるといえよう。
単価を引き下げ、間口を広げる方が合理的であると販売側は考えたのだと推測する。最近では、既存投資戦略にオルタナティブデータを組み入れた際に生じるアルファの期待値に応じてオルタナティブデータの販売価格を取り決めるといった値決め方法が検討されるなど、販売側は事業戦略の模索を続けているようだ。
このようにオルタナティブデータは年々、裾野を広げながら投資家との距離を縮めている。また、人工知能の研究の進展に伴いオルタナティブデータの精度も向上している。オルタナティブデータの前処理の多くは専門業者の手に委ねられ、投資家は使い勝手の良い加工済みデータを使用できる時代になった。
しかし、私の肌感覚では多くの現役ファンドマネ―ジャ―にとってオルタナティブデータはいまだ身近な存在になりきれていない。また、いくつかのデータが示している通り、本邦におけるオルタナティブデータ市場における売買やその利活用は欧米と比べると決して活況を呈しているとはいえない状況である。
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