日本の政府債務残高がG7各国と比べ極めて高いからといって、必ずハイパーインフレによってJGB(日本国債)がクラッシュするとは言えない。1990年代以降の日本の緩慢な国内需要を勘案して、近い将来のハイパーインフレが起こるとすれば、円暴落による輸入インフレによって引き起こされる可能性が高い。しかし、円暴落は将来的なわが国の「債務取り崩し国」移行後の対外純債務国への転落予想が前提となろう。加えて、市場参加者がG7各国の当局の中で突出して為替介入に対し好戦的で兵站も潤沢なMOF(財務省)による円防衛に勝利することは容易ではない。

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

1998年の金融不安によって日本の国債がトリプルAの座を失い、2000年代において政府債務残高がGDP(国内総生産)比で150%を超えてもなお堅調な上昇トレンドを続けるのをみた海外ヘッジファンドは、日本のハイパーインフレによるJGB暴落説をバックに、繰り返しJGB市場で売りアタックをかけてきた。

2022年12月には、このストラテジーが日銀の緩和修正によって、初めて日の目をみたわけである。本稿では日本経済滅亡論のフィージビリティを考える。

【図表】G7各国の一般政府グロス債務(GDP比%)の推移
G7各国の一般政府グロス債務(GDP比%)の推移
出所:IMF(国際通貨基金)の世界経済見通し(2022年10月)

政府債務残高のGDP比は現在約260%と推計されるが、JGBは全て円建てである上、日本は対外純債権国だ。国内債務は全て国内貯蓄によって賄われ、余資を海外に貯蓄しているわけである。したがって、理論的に日本は海外部門に依存することなく、JGBをファイナンスすることができる。

よって、政府債務残高が高いからといって、必ずしもハイパーインフレやJGBの暴落は起こるとは限らない。さらに、1990年代以降の日本の経済成長力は極めて緩慢で、JGBあるいは日本株の暴落の前提をハイパーインフレとするなら、それが強力な国内需要によって引き起こされる可能性は低い。

すなわち、近い将来日本でハイパーインフレが起こるとするなら、食品・エネルギーなどの国際商品価格の急騰や急激な円安による輸入インフレとなる可能性が高い。ただし、前者は予測不能であり、フィージビリティの高い日本経済滅亡論は、「円暴落→ハイパーインフレ→JGB・日本株の暴落→円暴落→ハイパーインフレ」というサイクルをたどると考えられる。

換言するなら、日本経済滅亡論のフィージビリティは、円暴落のフィージビリティということになる。ここでも、やはり日本が対外純債権国であることがポイントとなろう。

クローサーの「国際収支発展段階説」に照らせば、日本は2010年代に「未成熟な債権国」からふたたび貿易・サービス収支が赤字化する「成熟した債権国」に既に移行した。近い将来、経常収支が赤字となる「債務取り崩し国」への移行が期待されるが、そうなって初めて、再度対外純債務国への転落が現実味を帯びる。それまで円の暴落は起こりそうにない。

いまひとつは、昨年の第4四半期に目の当たりにしたように、市場参加者はMOFが円を防衛するために実施する為替介入に、果たして打ち勝つことができるか否かということである。

第一に、MOFは、欧米の通貨当局と異なり、為替介入の実施に極めて積極的であることは歴史が証明している。例えば2003~2004年に溝口財務官(当時)が実施し、のちにテイラー財務次官(当時)が自著の中で命名した「大量介入」などだ。

第二に、MOFが円防衛のために当座の間使用できる介入資金は、欧米の当局対比で極めて潤沢である。MOFは外貨準備から当座1.2兆ドル(2023年3月末)を使用可能である一方、米国財務省による介入資金はたった157億ドル(2021年9月末)に過ぎない。

ちなみに、自国通貨売り介入の場合、MOFは推計7300億ドル(2022年12月末)の資金枠を保有しているが、米国財務省のドル売り介入資金は248億ドル(2021年9月末)に過ぎない。

第三に、MOFは、外貨準備を利用したスポット・マーケットでの介入に加え、当座の資金を要さないアウトライト・フォーワードや為替オプションで介入を実施する用意があると言われている。また、Fed(米国連邦準備制度)と日銀は、無期限・無制限のスワップ協定を締結しており、これを使えばMOFは、スポット・マーケットでの介入も無制限に行うことができる。

このような為替介入に関して好戦的で兵站も極めて潤沢な当局相手に、戦い挑むことは無謀とも言えよう。