プライベートアセットのトリセツ 第3回 エクスポージャーを維持するには、中長期でのコミットメントペーシングが不可欠
伝統的資産にはないリターン特性や分散投資への貢献などの利点から、プライベートアセットへの注目度は高まる一途だ。ただし、同アセットクラスはその性格上、投資に特殊な知識を要したり、特別な注意が必要だったりする。連載「プライベートアセットのトリセツ」では、そんなプライベートアセットを使いこなすコツを、マーサージャパン 資産運用コンサルティング シニアコンサルタントの細谷弥穂氏の話を基に紹介していく。第3回は、エクスポージャーを維持する重要性について説明する。
「Jカーブ効果」で投資開始初期はリターンがマイナスになる
第2回では、プライベートアセット投資における留意点を挙げた。今回は、その1つである「エクスポージャーを維持する重要性」について詳しく説明したい。
マーサージャパン 資産運用コンサルティング シニアコンサルタントの細谷弥穂氏によると、プライベートアセットはコア型の不動産ファンド戦略を除き、クローズドエンド型ファンドが主流になっているという。
一般に、クローズドエンド型ファンドの運用期間は10-15年程度とされる。例えばPE投資では、投資開始後3-4年程度で投資を行い、経営支援を通じて投資先の企業価値を高め、売却によって資金を回収する。
投資開始後、すぐにはあまりリターンが上がらない一方で、運用報酬などのコストが先行する状況となる。ゆえにリターンは、投資開始当初の数年マイナスに落ち込み、その後プラスに転じる「Jカーブ効果」を見せる(図表1)。
「Jカーブ効果による運用開始後の数年間にわたるマイナスのリターンは、投資家の社内関係者を不安にさせる可能性があり、事前に関係者への十分な説明と理解が必要となる」(細谷氏)。
コミットメント金額=投資残高にならない
さらにクローズドエンド型ファンドは、株式や債券と異なり「目標エクスポージャーに到達するのに数年を要するほか、コミットメント金額(出資約束金額)=投資残高にならないのも特徴」と細谷氏は説明する。
低流動性資産に投資するファンドは、投資先となる企業や案件を調査し、投資価値があるのかを見定めるプロセスを繰り返して投資を実行していく。そのため、運用初日から全ての運用資産を投資に回すのは難しく、投資の進捗状況に応じて段階的に投資家に資金を求める「キャピタルコール(資金拠出要求)方式」がとられることが多い。これは、投資家にとっても、払い込んだ資金がドライパウダー(待機資金)として寝かされずに済むメリットがある。
投資家は、まずファンドにコミットメントする金額を約束し、キャピタルコールがかかる度に資金を払い込む。ただ、キャピタルコールがかからないと投資できないため、投資初期は投資残高が低くとどまり、キャピタルコールに応じて徐々に積み上がっていく。終盤には、資金が回収されるため投資残高は減少していく(図表2)。
「コミットメント金額の中からマネジメントフィーなどファンドの経費にも支払いが行われるため、実際に投資に回るのはコミットメントの9割以下のイメージ。そのため、コミットメント金額と投資残高が一致することはない」(細谷氏)。
これでは、運用全体のポートフォリオ戦略で描いていたプライベートアセット投資の目標エクスポージャーを達成することは難しくなる。そこで、例えば図表3のように毎年投資するなど時間を分散する工夫を取ると、1年目のファンドの投資残高が下がってきても、全体としては投資残高を積み上げていき、目標エクスポージャーに投資残高を近づけていくことが可能となる。
適切なコミットメントペーシングが不可欠
ただしこの時、毎年どれくらいの規模のコミットメントを行うべきかを検証し、計画を策定(コミットメントペーシング)することが大切になる。では、適切にコミットメントペーシングを行わないとどうなるか。PD(プライベートデット)に投資した場合を見ていこう。
図表4は、PDに運用資産総額の10%となる250億円の配分を行ったときの投資残高のイメージだ。同図を見ると分かる通り、オポチュニスティック(機会主義的)にコミットした「B」、1年目に目標エクスポージャーと同額をコミットした「C」のケースでは、目標エクスポージャーを維持できていない。
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