渡辺 機関投資家のポートフォリオ戦略で、J-REITが果たす役割とは。

田島 ケネディクスグループでは、J-REITの特徴として「専門性」「透明性」「流動性」の3つを挙げる。不動産の専門家が投資運用するJ-REITの透明性は非常に高く、東京証券取引所での流動性もある。実物資産を裏付けとしたイールド商品という意味でも、機関投資家にとって長期的に安定して投資いただける。J-REITは、日本銀行が投資している商品であり、世界中を探しても中央銀行が不動産エクイティに本格投資できるのは日本だけだ。J-REITにはダウンサイドに対するプロテクションがあると考えることができる。

小川 J-REITの特筆すべき特徴として、さらに安定的な分配金政策を加えたい。米国のUS-REITはキャッシュ(いわゆるFFO)ベースの約70%で分配金を調整している。一方J-REITは、利益のほぼ100%を確実に分配しており、透明性があって分かりやすく、投資家に安心感を与えている。

また、ボラティリティの低さから、J-REITはリスク回避型商品といっても過言ではない。どのセクターも賃料がしばらく下がる懸念がないため、内部成長が下支えになり、分配金が崩れることはないだろう。

棚橋 インカム志向が強い機関投資家からは、J-REITは債券の代替に位置づけられている側面を持つ。香港で2018年11月にIR(投資家向け広報)を行った際、J-REITは中国の機関投資家から国債と同等レベルの安定性を持つ資産として扱われた。彼らは株式のリスクを取りつつ、ポートフォリオ全体のなかでJ-REITを緩衝材として捉え、安定的にリターンを取れる資産として評価した。こういった認識が広まれば、今後J-REITのあり方も変わってくるのではないか。

J-REITの環境不動産は世界のESG 投資をリード

渡辺 昨今の不動産業界の運用ニーズの変化にJ-REITはどう応えているか。

田島 2018年は、不動産市場でESGに配慮した投資が急速に広まった年となった。この背景には、不動産会社・運用機関のサステナビリティ配慮を測るベンチマークであるGRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark・2009年に創設)の普及や2017年7月のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によるESG指数投資の運用開始などが契機にあるだろう。

数年前まで、環境不動産を整備するには不動産オーナーであるJ-REITやテナントがコストを負担しなければ実現しなかったが、世界最大規模の機関投資家であるGPIFが率先してESG投資を開始したことにより、資産運用会社は環境不動産への投資やESG投資に本格的に取り組むことができるようになった。

事実、「GRESB 2018年評価結果」では、J-REITにおけるGRESBの参加者数は、2017年の34社から2018年の38社に増加した。GRESBでは、サステナビリティに関する取り組みを「実行と計測(IM)」「マネジメントと方針(MP)」の2軸をもとに、4段階で評価する。2018年のJ-REIT参加者38社は、すべて最高位の「グリーンスター」を獲得した。不動産に関するESG投資の分野で、J-REITは世界をリードしているといえる。

小川 ESG投資のなかでも、金融市場の関係者が投資機会を得ながらグリーンプロジェクトに向かう資金の流れを作り出すことのできる「グリーンボンド」が、国内外で注目されている。当社でも、ちょうど2018年8月にグリーンボンドを発行したばかりだ。投資家の旺盛な需要を確認でき、0.63%という発行体としては非常に有利な条件での起債が実現できるマーケット環境にある点にも注目していただきたい。今回の発行をきっかけに、これまで付き合いのあった投資家に加え、新たに中央の機関投資家が参入するなど、当社にとって投資家層の裾野が広がった事例だ。

棚橋 現時点では投資判断に直接影響を与えるケースは少ないが、機関投資家からESGの取り組みについて聞かれるようになった。当社では現在、経済性とのバランスを考慮し、効果的と判断できる取り組みを中心に実施している。例えば、テナントとの間で照明のLED化工事を実施した際に工事費用の一部を負担してもらうグリーンリース契約を締結。LED化を進めることで環境に優しいだけでなく、電気使用料を抑えられるためテナント満足度向上にもつながり、さらに当社の経済的負担も抑えられる。

また、当社は「E」だけではなく、「S」も重視している。資産運用会社では専門的な知識・スキルが求められるため、優秀な社員が長く働き続けられる環境を整えることが、長期的な投資法人の投資主価値向上に資すると考えている。具体的には、例えば育児・休暇制度などのワーク・ライフ・バランスに配慮した制度および支援の拡充などだ。同時に、企業および役職員一人ひとりの成長には「制度ではなく風土」が重要と考えており、制度および支援の拡充のみならず、役職員一人ひとりがやりがいや充実感を感じられるような「働きたくなる」組織風土づくりを推進している。