世界的に気候変動への対応が急務となる中で、機関投資家の”脱炭素投資”の重要性が高まっている。だが、一言に脱炭素投資と言っても、それがカバーする分野やトピックは多岐にわたる。連載「脱炭素投資の羅針盤」では、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ ポートフォリオ・ストラテジストの清水英彦氏が、日々新たなトピックが生まれる同投資において、機関投資家が知っておくべき様々な話題を紹介・解説する。
近年、ESG(環境・社会・企業統治)を考慮した投資が急速に発展、普及してきましたが、足元では2021年に英グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)での議論などを受け、資産運用の世界でもパリ協定の目標を意識した取り組みが進んでいます。
温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ(※1)に関する資産運用会社のグローバルなイニシアチブであるネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ・イニチアチブ(NZAMI)には2022年5月時点で61.3兆ドルの資産を運用する273機関が参加(※2)しており、2050年、あるいはそれ以前のネットゼロ目標達成を支援しています。このように2050年のGHG排出ネットゼロが社会的な目標となる中、欧州で設定された低炭素ベンチマークなどの新たな脱炭素投資戦略が投資家の注目を集めています。
本連載ではESG投資の中で現在、最も注目を集めている分野の一つである脱炭素投資を巡る様々な話題を紹介、解説していきます。第1回となる今回は、脱炭素投資を考える上で前提となる気候変動問題に関する論点をいくつか紹介します。
IPCCの指摘~人類の温暖化への影響は疑う余地がない~
2015年に成⽴したパリ協定では、世界的な平均気温上昇を産業⾰命以前に⽐べて2℃より⼗分低く保つとともに、1.5℃に抑える努⼒を追求するとしていましたが、科学的な知見の蓄積や温暖化の影響の深刻化などを背景に2021年のCOP26以降、1.5℃目標がより重視されるようになっています。
気候変動問題に対する有力な科学的な根拠の一つとして、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の評価報告書があり、各国の政策に強い影響力を持ちます。
2021年のCOP26に先立って公表された第6次評価報告書(AR6)の第1作業部会(WG1)の報告「気候変動 – 自然科学的根拠」(以下、同報告)では、人類の活動が温暖化に影響を与えていることは疑う余地がないと断定し、大気や海洋に広範囲かつ急速な変化が現れていると警鐘を鳴らしています。
限られた残余カーボンバジェット
同報告によると、累積CO2排出量と世界の平均気温の上昇はほぼ線形の関係にある(図表1)ことから、気温上昇を一定のレベルに抑えるための累積排出量の上限を推定することができます。これをカーボンバジェットと呼び、カーボンバジェットから既に排出されたCO2排出量を除いたものが将来、排出可能なCO2排出量(残余カーボンバジェット)となります。
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