経済指標を読み解く 11カ月ぶりに前年比増加に転じた2022年5月の自殺者数。雇用データの変化を見る
改善基調だった2022年4月分の雇用データ
2022年4月分の完全失業率は、前月から0.1ポイント低下し2.5%となった。改善は3カ月連続で、新型コロナウイルスの影響が本格的に出る前の2020年3月分の水準に戻った。2020年10月分の3.1%をピークに、小幅な振幅を伴いつつ緩やかな低下基調が続いている。
2022年4月分の有効求人倍率も0.01ポイント上昇の1.23倍と2020年4月分の1.31倍以来の水準に4カ月連続で改善した。なお、有効求人倍率の直近のピークは2018年10月分の景気の山の1カ月前の2018年9月分の1.64倍で1974年1月分の1.64倍以来の水準だった。直近のボトムは新型コロナの影響が大きく出た2020年9月分の1.04倍で2020年5月の景気の谷の4カ月後であった。
2022年4月分の雇用データの改善は、新型コロナのまん延防止等重点措置が2022年3月に解除され、経済活動が活発になった影響がみられる。同年4月分の就業者数は前年同月に比べプラス24万人で、6727万人となった。増加は7カ月ぶり。休業者数は前年同月に比べマイナス10万人と4カ月ぶりに減少し190万人となった。
「景気ウォッチャー調査」での分析
「景気ウォッチャー調査」で雇用関連の現状水準判断DI(季節調整値)をみると、2021年10月分50.4、11月分51.9、12月分54.9と改善傾向にあったが、新型コロナウイルス感染第6波と、それに伴いまん延防止等重点措置がとられたため、2022年1月分で45.4まで低下し、その後2月分47.7と景況判断の分岐点の50を下回った。
まん延防止等重点措置が解除された直後の25日~31日が調査期間だった3月分で50.5と50超に戻り、4月分55.0、5月分57.8と改善している。
5月分で「新型コロナウイルス」関連DIをつくると、現状判断は62.1(回答した景気ウォッチャー数・324人)、先行き判断は60.5(同414人)となり、4月分の現状判断55.1(同・336人)、先行き判断54.7(同492人)から一段と改善し、新型コロナが景況感を悪化させる影響が薄れていることが分かる。
経済正常化の動きは、2022年5月分の「県民割(都民割など含む)」DIが、現状判断75.0(同・22人)、先行き判断70.3(同・32人)、また「外国人orインバウンド」DIが、現状判断62.5(同・16人)、先行き判断75.4(同・71人)になっていることなどから感じられる。雇用面でもプラスになろう。
一方、「価格or物価」DIが、現状判断39.0(同・155人)、先行き判断39.7(同・327人)になっていることから、価格高騰の影響が景況感に影を落としていることが感じられる。現在、新型コロナの感染が落ち着いてきて経済活動が活発になった。一方、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや食品価格の高騰や、急激な円安が企業収益や家計消費へ悪影響となる懸念がある。
実質賃金が減少になりやすい理由
毎月勤労統計で2022年4月分の実質賃金は前年同月比マイナス1.2%と4カ月ぶりの下落になった。名目賃金(現金給与総額)が前年同月比プラス1.7%と4カ月連続増加になったものの、デフレーターの全国CPI(消費者物価指数。持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比がプラス3.0%と高い。
全国CPI(総合)の前年同月比は当面プラス2%台が継続すると予測されている。全国CPI(総合)のうち15.8%のシェアがある、実際には家賃の受払を伴わない持ち家住宅について計算した、帰属家賃の前年同月比4月分では0.0%になっている。
全国CPI(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比はプラス3.0%前後の高めの水準が続いてしまい、当面、実質賃金はマイナスになりそうだ。雇用・賃金面の厳しい数字である。
2022年5月分完全失業率は2.6%に悪化も
完全失業率と警察庁が集計している自殺者数との、1978年~2021年の44年間の年次データの相関係数は0.91と高い。自殺の理由は健康問題や家庭問題など様々だが、経済生活問題が理由となることも多いからだ。完全失業率と相関性がある自殺者数の前年同月比に最近、気掛かりな動きが出てきた。
自殺者数の前年同月比は2021年6月分がプラス18.2%と増加だった後、同年7月分ではマイナス7.3%で減少に転じた。その後2022年4月分はマイナス7.3%と10カ月連続して減少だった。完全失業率の低下傾向と整合的な動きである。
しかし、自殺者数の2022年5月分速報値は1999人で前年同月比プラス7.2%と11カ月ぶりに増加に転じた(図表)。5月分としては2017年の2024人以来5年ぶりの高水準になってしまった。後日、発表される暫定値では速報値で把握されていなかった件数が加わるためさらに悪化する可能性が高い。
【図表】月次の自殺者数
月次の速報値段階では自殺の原因は公表されておらず、分からない。新型コロナに感染した人の後遺症の問題など健康問題も大きいのかもしれない。経済問題に絡んだ自殺者数の増加が見られ始めた可能性もある。いずれにしても、しばらく自殺者数の動向から目が離せない。
2022年4月分の完全失業率は小数点第2位までみると2.54%の2.5%である。0.1ポイントでなく、0.01ポイントの上昇で、2.6%になる。同年7月1日に発表される2022年5月分の完全失業率は要注視だ。