25カ月ぶり前年同月比下落の可能性大。4月入着原油価格

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

現在の物価高の要因の1つとして、ロシアのウクライナ侵攻の影響でエネルギー価格などが高騰したことが挙げられる。2022年は2月24日の侵攻開始直後の3月から6月にかけて、代表的原油価格のWTIの月中平均価格は1バーレル=100ドル超となった。

しかし、2023年4月の月中平均価格は79.44ドル/バーレルで2022年4月の101.64ドル/バーレルに比べマイナス21.8%低い水準になっている。ロシアとウクライナの戦闘は終息の目途が立たない状況であるが、1月から4カ月連続してWTIの前年同月比はマイナスと、原油価格自体は一時に比べだいぶ落ち着いてきている。

一方、円ベースでみた原油価格である3月の入着原油価格・前年同月比はプラス8.3%とまだプラスである。入着原油価格は貿易統計データから、金額÷数量で算出する。前年同月比には円ベースでみると、まだ為替の円安の影響が残っている。

しかし、入着原油価格が4月上中旬で6万8873円/kl、前年同旬比約マイナス15.2%の低下になった。前年同月比の直近ピークだった2022年6月はプラス101.2%の上昇で、当時の入着原油価格は9万円/kl台だった。そこからは大幅に低下している。

5月18日公表の4月貿易統計で4月の入着原油価格・前年同月比の2021年3月のマイナス1.7%以来の下落になろう。2022年の秋は現在より円安水準だったので、今秋になると前年同月比でみて円高ということになる。タイムラグを伴って、電気代などに反映される原油価格の足元の鈍化は、政府の電気・ガス料金の負担軽減策がなくなった後の2023年10~12月期の物価安定要因となっていくことが期待される。

前年比が鈍化の商品指数、国内企業物価。上昇続く消費者物価

国内企業物価指数に対し先行性がある日経商品指数42種は、23年4月の前年同月比は プラス2.0%で1年前の22年4月のプラス25.9%から上昇率が23.9ポイントも鈍化している。4月は前月比がマイナス0.3%と4か月ぶりの低下になった。需要の弱さから非鉄金属が低下し、牛肉などの高水準の国内在庫が重石となり食品が低下した。

4月の国内企業物価指数の前年同月比はプラス5.5%と、3月のプラス7.2%から上昇率が鈍化した。直近のピーク2022年12月のプラス10.6%を5.1ポイント下回り、2021年6月のプラス5.0%以来の低めの伸び率になった。このように、先行性がある物価指数は徐々に鈍化傾向が鮮明になってきている。

一方、高めの伸び率が続いているのは、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)だ。2023年1月の前年同月比プラス4.2%の上昇と1981年9月のプラス4.2%以来41年4カ月ぶりの高い上昇率となった。2月から政府の電気・ガス料金の負担軽減策により1%ほど前年同月比の抑制要因になっている。直近の3月全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年同月比はプラス3.1%で19カ月連続の上昇になった。3月の全国消費者物価指数(総合)の前年同月比はプラス3.2%、全国消費者物価指数(生鮮食品およびエネルギーを除く総合)の前年同月比はプラス3.8%である。

政府の電気・ガス料金の負担軽減策の影響を受けない、全国消費者物価指数(生鮮食品およびエネルギーを除く総合)の前年同月比は4月でプラス4%台に上昇しそうだ。プラス4%台は1981年10月のプラス4.0%以来41年6カ月ぶりの高水準になる。

なお、エコノミストのコンセンサス調査であるESPフォーキャスト調査・4月調査をみると、全国消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の前年度比・予測平均値は2023年1~3月期のプラス3.37%と3%台だが、4~6月期プラス2.75%、7~9月期プラス2.25%に鈍化した。10~12月期はプラス1.79%と2%割れになり、2024年1~3月期プラス1.83%、4~6月期プラス1.73%になるという見通しだ。

「物価上昇」判断DI、2022年10月90.4から、4月は4.5ポイント鈍化

内閣府は2016年9月から「消費者マインドアンケート調査」(試行)という調査を実施している。「消費者マインドアンケート調査」から、「景気ウォッチャー調査」と同様の手法で「物価上昇」判断DIをつくることができる。1年後の物価を「上昇する」「やや上昇する」「変わらない」「やや低下する」「低下する」の5段階で評価し回答してもらっている。それぞれ「1」「0.75」「0.5」「0.25」「0」の点数を割り振り、加重平均して「物価上昇」判断DIが算出できる。指数は50が判断の分岐点になる。

【図表】物価上昇DIの推移(消費者マインドアンケート)
物価上昇DIの推移(消費者マインドアンケート)
※「上昇する」から「低下する」までの5段階の回答を景気ウォッチャー調査と同様にDI作成した。
※クリックすると拡大されます。
出所:内閣府

2016年9月から2023年4月までの「物価上昇」判断DIは、2021年2月の60.0が最低で、1ドル=150円超の円安になった2022年10月の90.4ポイントが最高だ。これまでの平均は74.6で、全回答が「やや上昇する」ときの75.0に近い数字だ。90.4が出たときは回答の66.3%が「上昇する」だった。

2023年4月は85.9で、物価上昇を見込む向きが依然多いものの、DIは落ち着いてきた。「やや上昇する」は34.2%と22年10月から4.1ポイント増え、「上昇する」は56.2%と10.1ポイント減少している。