マイナス金利を乗り越える年金運用 第10回 あなたは未経験のインフレに対応できますか? ~インフレ・金利上昇と債券投資~資産運用者に贈る2つのエピソード
欧米の資産運用者は物価上昇に鋭敏な危機意識を有している
ロシアによるウクライナ侵攻以前から、国際的な物価の上昇が確認されていた。物価上昇の要因は決して一つではない。感染症対応の自粛モードから経済がウィズコロナに切り替わり、様々な物品やサービスに対する需要が高まったのも一つである。また、好調な需要を背景とした人材不足もあって、製造やサービスの提供に制約が生じてもいる。加えて、新型コロナウイルスの影響や人的資源の欠乏などからの交易に対する制約は、サプライチェーンを分断させ、市場メカニズムを通じた不均衡価格の是正が円滑に行われることを難しくしている。
これらに共通し大きく影響しているのが、原油などエネルギー価格の上昇である。経済の回復による需要拡大のみならず、東欧の政情不安に起因するエネルギー供給への懸念もあって、原油価格は数年ぶりの高値水準になっている。消費者に対しては、ガソリンや灯油価格の上昇といった直接の影響のみならず、燃料や飼料、原材料の価格上昇から、ほぼすべての物品・サービスの価格がタイムラグを持ち上昇することで影響は不可避である。
物価上昇と連動して賃金も上昇すれば消費を維持できる可能性もあるが、30年近くデフレによって物価が横ばいの経済を経験してきたため、公的年金の給付などを除いて物価連動のメカニズムが放棄されて久しい。最終的な製品へ価格転嫁が行われるまでの間に賃金上昇ができない場合、買い控えなどから消費行動が抑制され、経済成長に負の影響を及ぼすことになろう。
およそ30年にわたるデフレ傾向から物価の上がらない経済のなかで、資産運用者がインフレーションへの対応を忘れ、備えていないことが危惧される。給付が物価上昇に連動していないから問題ないと見るのは誤りである。物価上昇によって給付や保険金の実質的な価値が下落したら、受取人は投資の意義をどう考えるだろうか。欧米の資産運用者は物価上昇に対し鋭敏な危機意識を有している。
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