緊急事態宣言の解除を受けて個人消費は回復基調

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2021年10月1日に4回目の緊急事態宣言が解除された。営業を自粛していた飲食店では再開の動きが広がり、旅行の予約も増え始めている。新型コロナウイルスのワクチン接種完了率(2回の接種を終えた人の比率)が9月末に60%を超えたことで感染拡大への警戒感も和らいでおり、市中の人出は回復傾向にある。

人の移動の変化を指数化した「グーグル・コミュニティ・モビリティ・レポート」によると、小売店・娯楽施設への訪問者数のベースラインからの変化率は、新型コロナの感染が急拡大した8月半ばから9月上旬にかけて20%以上落ち込んでいたが、10月に入るとマイナス幅は10%減まで縮小している。新規感染者数も抑制された状態が維持されており、足元の個人消費はサービス関連を中心に持ち直している。

供給制約が生産活動を大きく下押し

停滞していた個人消費に明るい兆しが見え始めたことは好材料だが、ここにきて供給制約による影響が日本経済に影を落とし始めている。2021年9月30日に発表された8月の鉱工業生産指数は前月比3.2%減と事前の市場予想(0.5%減)を大幅に下回った。

特に自動車を含む輸送機械工業が前月比12.5%減と落ち込んだ。半導体不足が続いていることに加え、今年の夏は東南アジアでも新型コロナの感染が広がり、現地工場の操業中断などで日本向けの部品供給が滞ったことが影響している。製造工業生産予測指数によると、部品不足の影響で輸送機械工業は9月も前月比8.7%減とマイナスが見込まれている(図表)。

【図表】鉱工業生産指数の推移

図表
(注)2021年9月予測は生産予測指数の伸び率を業種別生産指数に乗じて延長している
(出所)経済産業省

供給制約に伴う減産の影響は販売現場にも波及している。9月の国内新車販売台数は前年同月比32%減、2019年9月比では42%減少した。自動車だけでなくスマートフォンなど電子機器の供給にも支障が生じている。米アップルの新型「iPhone13」シリーズもアジアの部品工場の操業停止の影響で出荷が遅れている。

東南アジアの感染拡大に起因する供給制約は徐々に解消されるとみられるが、電力不足で中国の生産が停滞しており、部品不足が長引く可能性がある。サプライチェーン(供給網)を通じた供給制約は当面の生産活動や個人消費の下押し要因となろう。

今後公表される経済指標は景気の踊り場局面入りを示唆する公算

2021年8月の鉱工業生産指数が下振れしたことを受けて、経済産業省は生産の基調判断を「持ち直し」から「足踏み」に引き下げた。10月29日に公表される9月の生産指数も前月比1.3%減(経産省が試算した補正値)が見込まれており、予測通りの結果になると2021年7~9月期は前期比で2.1%減となる。最初の緊急事態宣言が発令された2020年4~6月期以来5四半期ぶりのマイナスで生産活動の減速が鮮明となる。

また、9月の鉱工業生産がマイナスになると、同月の景気動向指数(CI一致系列、11月8日公表)も前月比で低下する公算が大きい。その場合、機械的に判定される基調判断は「改善」から「足踏み」に下方修正される。

11月15日に公表される2021年7~9月期のGDP(国内総生産)統計も弱い結果が見込まれる。筆者もフォーキャスターとして参加しているESPフォーキャスト調査の最新予想(10月7日公表)をみると、7~9月期の実質GDPは前期比年率1.0%増と4~6月期(年率1.9%増)から減速する見通しで、米欧と比べた景気回復力の弱さが改めて確認されるとみられる。

現時点では、10~12月期のGDPは緊急事態宣言の解除を受けた個人消費の持ち直しで高めの成長が見込まれる。ただし供給制約が長期化した場合には、景気回復シナリオがさらに先送りされることも考えられる。