欧州経済
ユーロ圏の景気は減速、政治イベントの行方に注意

個人消費・固定投資を中心に成長率は低下する見通し

松本 惇氏
みずほ総合研究所
欧米調査部
主任エコノミスト
松本 惇

2017年のユーロ圏では、景気回復ペースが鈍化する見通しだ。景気見通しのポイントは3つある。第1に、個人消費の減速が見込まれることだ。原油価格の持ち直しに伴ってインフレ率が上昇し、家計の実質賃金が下押しされるとみられるためである。名目賃金が伸びれば物価面からの下押し圧力を相殺できるが、労働市場がタイトなドイツでさえ、生産性の低さや諸外国との競争激化のなか、企業は賃上げに慎重だ。また、2016年の賃金交渉の際、ドイツの大企業は2017年の賃上げ率を2016年より引き下げることに合意しており、この点も2017年のドイツの賃金に期待できない理由である。

第2のポイントは、固定投資の低調さだ。英国とEU(欧州連合)との将来関係を巡る不確実性が残存するため、企業は投資への慎重姿勢を維持するだろう。欧州委員会が行うユーロ圏製造業の設備投資調査では、2017年の投資計画が前年比2%程度の増加にとどまった。これは、債務危機が深刻だった2012年並みの低い水準である。

第3のポイントは、財政面からの景気押し上げが期待できないことだ。ユーロ圏全体でみて2016年は小幅な拡張財政となった模様だが、各国の予算案を踏まえると、2017年は中立財政が計画されている。ECB(欧州中央銀行)や欧州委員会などは、財政余力のある国に拡張財政を求めている。だが、財政余力があり、かつ、経済規模の大きいドイツは健全化路線にこだわっている。

以上より、内需を中心に景気は減速するとみられ、みずほ総合研究所では2017年のユーロ圏GDP成長率が+1.3%と、2016年(+1.6%の見込み)から低下すると予測している。新興国経済の持ち直しなどを背景とした輸出受注の改善や今後見込まれるユーロ安による輸出押し上げ効果を踏まえれば、今後の輸出回復ペースは加速が期待される。しかし、それだけでは内需減速の影響を相殺できないだろう。

2017年は選挙イヤー、EU懐疑派の躍進が統合に逆風

ユーロ圏にとって2017年は選挙イヤーであり、注目されるのはEU懐疑政党の動向だ。ユーロ圏では、3月にオランダ総選挙が、4・5月にフランス大統領選が、6月にフランス総選挙が、そして8~10月にドイツ総選挙が予定されている。イタリアでも前倒し選挙が実施される可能性がある。

既存政党への不信や移民問題などを背景に、オランダの「自由党」やフランスの「国民戦線」、ドイツの「ドイツのための選択肢」やイタリアの「五つ星運動」といったEUに懐疑的な政党が支持を伸ばしている。選挙でこれらの政党が躍進したり、EUあるいはユーロ離脱の是非を問う国民投票が実施されたりすることが懸念されている。こうした政治イベントに絡んだ金融市場の混乱が、企業マインドの悪化を通じて景気回復の重石になるリスクがある。

世論調査をみる限り、EU懐疑政党は議席を拡大するものの、単独で過半議席を獲得するには至らないと考えられる。しかしながら、政権を担わずとも、EU懐疑政党が躍進することは、各国の内向き志向を一段と強め、今後のEU統合深化にとって逆風となるだろう。世論調査を過信してはならないことは英国民投票や米国大統領選が示す通りであり、世論調査に表れない「隠れ懐疑派」が存在する可能性がある。選挙が想定外の結果となった際のリスクにも目を向けるべきだろう。