中国経済
中国は経済の安定を最重視、2017年は6%台の成長率の予想

米国の保護貿易主義への転換と資本流出が景気下振れリスクに

齋藤 尚登氏
大和総研
経済調査部 担当部長
主席研究員
齋藤 尚登

中国の実質GDP成長率は、2016年1~3月以降、3四半期連続で前年同期比6.7%成長を維持し、景気は底堅く推移している。2016年は前年比6.7%前後と、政府経済成長率目標である同6.5~7%を達成した可能性が高い。

2017年秋には、今後5年間の国家の基本方針を決定する最重要会議である党大会が開催される。成長率を大きく下振れさせる可能性のある大胆な改革は先送りされ、安定が最優先されることになるだろう。2017年はインフラ投資の堅調と外需の回復を下支え役に、実質GDP成長率は6.4%程度となると予想している。

2017年のリスク要因として特に注意が必要なのは、トランプ氏登場による中国経済への影響である。トランプ氏は「中国からの輸入品に45%の関税をかける」と発言した。確かに、貿易政策上、米国の大統領に付与された権限は大きく、150日を超えない範囲内での輸入割り当ての実施、あるいは15%以内の輸入付加税を課すことが可能だ。しかし、「45%関税」は、その権限を大きく逸脱しているし、WTO(世界貿易機構)の規定違反である。

それでも、米国第一主義を志向する新政権の保護主義的な傾向が、どのような形で通商政策に表れるかは予断を許さない。2017年は、先進国景気の緩やかな回復と2016年の元安効果の発現が、中国の輸出回復を後押しするとみているが、米国の保護貿易主義がそれを損なうリスクがある。

資本流出加速も中国にとって頭が痛い問題であろう。トランプ氏が公言する減税とインフラ投資拡大は、米国の財政収支赤字拡大と金利上昇を招き、ドル高傾向が強まる。中国では資本流出圧力がさらに高まり、金利は上昇する。中国の5年物国債利回りは、米大統領選挙前の2016年11月8日の2.49%から12月末には2.84%へ上昇した。金融引き締めによる景気への悪影響が懸念されよう。

こうしたリスクが顕在化するなどして景気下振れ懸念が高まれば、中国政府は、財政出動の強化などで景気を支えざるを得なくなるだろう。

マーケットの行方を左右する人民元と外貨準備の動向に注目

2016年の住宅市場は過熱し、11月の全国70都市新築住宅価格は前年同月比12.6%の上昇を記録した。12月の中央経済工作会議では、「住宅は住むためのものであり、投資・投機の対象ではない」として、住宅価格抑制に本格的に取り組む姿勢を明らかにした。住宅市場のモメンタムは低下しよう。

住宅価格抑制は株式市場のプラス材料となり得る。中国では株価と住宅価格は反対の動きをすることが多く、住宅市場からの投資資金の受け皿として株式市場がクローズアップされる可能性があるためだ。

一方、懸念材料は「人民元ショック」の再燃リスクである。米大統領選挙後の元の対ドルレートは他通貨との比較で堅調に推移しているが、これが大規模な元買い支えの結果であれば、良い話ではない。2016年1月に上海株は月間22.6%安と急落した。元買い介入で外貨準備が1000億米ドル近く急減するなかで元安が進み、マーケットはそれを「コントロール不能な元安」と見なし、当局の政策遂行能力への不信を生んだ。

2016年11月の外貨準備は月間691億米ドルの減少と、例えば9月の188億米ドル減と比べ、減少幅が拡大し始めている。元安と外貨準備急減の組み合わせは人民元ショック再燃の引き金となり得るだけに、注意が必要である。