米国経済
米国が世界経済を牽引するも、新大統領に振り回される1年に

政策の手詰まり解消により米国経済の成長ペース加速へ

桂畑 誠治氏
第一生命経済研究所
経済調査部
主任エコノミスト
桂畑 誠治

2016年の米大統領選挙では、得票数ではクリントン氏が約286万票も上回っていたにもかかわらず、306人とクリントン氏の232人を大幅に上回る選挙人を獲得したトランプ氏が第45代米国大統領に選ばれた。

同時に行われた議会選挙では共和党が上下両院で過半数を維持したため、政府と議会のねじれが解消され、トランプ氏が選挙公約として掲げた“トランプノミクス(Trumponomics)” と呼ばれる大規模減税やインフラ投資拡大、規制緩和などの経済政策への実行期待が急激に高まった。それまで、世界的に低成長が懸念されていた状況から一変、急速に楽観度が増している。

米主要株価は史上最高値を更新する展開となり、金利は上昇、ドル実効レート(広域ベース)は最高値に向けて上昇している。経済面では米国は他国と比較して良好な状態にある。緩やかな経済成長が持続するなかで、雇用が堅調なペースで増加を続け、失業率は16年11月に4.6%と完全雇用に近い状態となっている。

年後半から所得減税スタートか、議会承認を優先し投資規模縮小も

米景気は、雇用情勢の改善傾向持続や資産価格の上昇などによる国内需要の拡大を背景に成長を維持するものの、16年11月以降の急激なドル高や予想される暴風雪などの影響で、2017年春先にかけて成長率がやや抑えられると見込まれる。17会計年度(16年10月-17年9月)予算が17年4月28日までの暫定予算となっているが、トランプ氏が1月20日に大統領に就任した後、インフラ投資や国防支出の拡大を含む本予算を策定することで、初夏ごろから、経済成長は徐々に加速しよう。

所得減税に関しては、18会計年度が始まる17年10月にスタートするとみられるが、遡及する形で7月ごろに税還付を実施する可能性もある。これらの効果も加わり、17年後半の経済成長率は加速すると予想される。ただし、共和党は上院で52議席と安定多数となる60議席を下回っており、民主党が支持できない内容の法案の可決で議事妨害を受ける可能性がある。民主党の一部に支持を得るため、減税、インフラ投資の規模はトランプ氏が公約として掲げていたものより縮小され、押し上げ効果も小さくなると見込まれる。

貿易交渉次第でドル安が進行。利上げ幅拡大が混乱の種に

17年の米国GDP成長率は、循環要因や政策効果などにより前年比+2.5%と16年予測の同+1.6%から加速すると見込まれ、世界貿易・経済の回復につながり、世界GDP(国内総生産)は同+3%台半ば弱に加速しよう。このような経済状況のもと、金融市場の過度な混乱が起きなければ、FRB(米連邦準備理事会)は17年に3回前後(75bp)の利上げを実施すると見込まれる。

しかし、トランプ新大統領が二国間での貿易交渉を進める段階で、関税引き上げなどの保護貿易的な政策や通貨高圧力をかけるような動きが出てくれば、ドル安が進む可能性がある。景気が強まるなかでドル安が進めば、米経済成長やインフレ圧力の押し上げにつながり、FRBは利上げペースを加速させよう。そうなれば、新興国では資金流出、市場混乱、通貨の大幅下落に見舞われ、インフレ圧力が高まり、景気情勢にかかわらず利上げに追い込まれ、景気が悪化する可能性が高い。17年は、経済成長加速への期待が強いなかで、トランプ米大統領の発言や政策に振り回される状況が続く公算が大きい。