2016年10月14日、公益社団法人 日本証券アナリスト協会が日本証券アナリスト大会を開催した。31回目を迎える今回は、「AI・IoT革命に挑戦する企業とアナリスト」のテーマで議論が交わされた。

会場
会場には、700人を超える参加者が集まった

昨今、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)に関する報道を目にすることが多くなった。こうした先端技術が人間生活を豊かにするとの期待が寄せられる一方で、人間の仕事が奪われるのではと不安視する声もある。日本証券アナリスト大会では、AI・IoTがもたらす変化のなかで、人間の仕事や企業の在り方について議論が行われた。

第一部「記念講演Ⅰ」では、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏が「AI・IoTは経済構造をどう変えるのか」の題で講演。柳川氏は、「データの処理や暗記といったAIの得意分野と業務領域が重なるホワイトカラーの仕事で、AIによる代替が進む可能性がある。人の仕事をより専門性の高いものへと変えていく必要がある」と話した。

続いて「記念講演Ⅱ」では、三菱ケミカルホールディングス取締役会長の小林喜光氏が登壇。「AI・IoT革命とKAITEKI会社・SAITEKI社会」のテーマで講演が行われた。小林氏は、「グローバル化・IT化・ソーシャル化が進行する世界で、企業は量の拡大ではなく質の向上へと企業活動の方針を転換すべき」と指摘。成長企業に必要な要素として「利益率:コーポレートガバナンス」「事業継続性:ESG(環境・社会・ガバナンス)」「革新性:プロダクトを生みだす機動力」を挙げた。

パネルディスカッションでは、モデレーターを務めるBNPパリバ証券 投資調査本部長 チーフクレジットアナリストの中空麻奈氏の「AI・IoT革命の先の世界像は」の問いに対して、BTジャパン代表取締役社長の吉田晴乃氏は「タクシーを持たないタクシー会社『ウーバー』が登場するなど、IT技術の発展によって物理的な制約を越えた企業活動が可能になった。企業のアイデア次第で生活を大きく変える技術やサービスが次々に登場するだろう」と語った。

ZMP代表取締役社長の谷口恒氏は、AI・IoTの活用に関して、国内企業が抱える問題点を次のように指摘。「国内ではAI・IoTの技術の可能性について多様な議論が行われているが、具体的なプロダクトが登場していない。欧米のように、実際のプロダクトやサービスが社会に浸透していくには、技術をどう社会で活かすかといった話し合いが必要だ」

CYBERDYNE代表取締役社長で筑波大学サイバニクス研究センター長、内閣府ImPACTプログラムマネージャーの山海嘉之氏は、AI・IoTが人間の雇用や働き方に与える影響について、「AIは人間の仕事を補完する形で発展し、人々が享受するサービスの質は向上していく。これにより、豊かさにおける格差は減少していくが、資産の格差はさらに拡大すると考えられる」と解説した。

大会の最後には、AI・IoT革命の時代のアナリストの在り方について意見が交わされた。谷口氏は「アナリストは、市場のリスクに着目するだけではなく、成長の可能性を見つけ指し示すことにも注力すべき。そうした、”0”から”1”を生みだす想像力こそがまさに人間の仕事として重要になる」と締めくくった。