民間設備投資の先行指標の機械受注

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

機械受注は設備投資の先行指標として知られている。機械受注(船舶・電力を除く民需、以下、除船電民需と表記)とGDP(国内総生産)統計の名目・民間企業設備投資との時差相関係数を、2005年10~12月期から2021年1~3月期の62四半期のデータで計算すると、2四半期先行した機械受注(除船電民需)と名目設備投資の間では0.8069、1四半期先行では0.8466、同期では0.8398である。1四半期先行のケースが最も相関係数が大きい。

一服感あった機械受注は足元持直し

機械受注(除船電民需)の直近の動きをみると、5月分の前月比プラス7.8%と3カ月連続の増加としっかりした動きになっている。

5月分機械受注(除船電民需)で大型案件は該当なしでも、前月比はしっかりした伸び率になった。3カ月移動平均は前月比プラス4.0%で4カ月ぶりの増加になった。

製造業の前月比はプラス2.8%と2カ月連続の増加だ。業種別では電気機械や造船業など17業種中9業種が増加した。電子計算機などの受注が伸びたが、そこに含まれる半導体製造装置の需要増が反映されていよう。また、国内外で販売が回復している自動車関連の設備投資の増加も感じられる。

非製造業はプラス10.0%で2カ月ぶりに増加した。12業種のうち、通信機、運搬機械が伸びた通信業など5業種が全体を押し上げた。

コロナ禍の機械受注の基調判断推移

新型コロナウイルス禍の影響が出た2020年の内閣府の機械受注の基調判断の推移をみると、前年10月分から2020年3月分まで半年にわたり「足踏みがみられる」であったが、新型コロナ感染拡大の影響が大きく出た2020年4・5月分で「足元は弱含んでいる」に、さらに6・7月分では「減少している」という判断に下方修正された。

そこから持ち直し、2020年8・9月分で「下げ止まりつつある」に、10月分で「下げ止まっている」、11月分で「持ち直しの動きがみられる」、12月分は「持ち直している」に連続して上方修正された。

2021年に入ると、内閣府の基調判断は1月分では「持ち直している」で据え置きであったが、2~4月分では「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に判断が下方修正され、機械受注の一服感が続いていた。

しかし、5月分で機械受注(除船電民需)の3カ月移動平均が4カ月ぶりに増加に転じたことなどを反映し、「持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。

【図表】機械受注(除船電民需)の推移

図表
※季節調整値、単位:100万円
(出所)内閣府

コロナ禍での設備投資判断DIの推移

景気ウォッチャー調査で、設備投資を判断理由に挙げたウォッチャーの回答から設備投資関連・現状判断DI(ディフュージョン・インデックス)を作成すると、新型コロナ禍の影響で2020年4月10.0へと急落したが4月を底に11月は50.0まで持ち直した。

しかし、その後は新型コロナの感染状況に翻弄されるように、2021年2月に37.5まで低下した後、3月47.5に戻り、4月44.4、5月45.0、6月50.0と景気判断の分岐点の50は超えられないものの戻り基調にある。6月では「客の設備投資意欲に変化はみられない」(東北・通信会社<営業担当>)というコメントがあった。

一方、設備投資関連・先行き判断DIは2020年4月には新型コロナウイルスの影響で18.8まで弱含んだが、その後は変動を伴いつつ、2021年1月64.3まで上昇した。2021年上半期の最高は1月で、最低は5月37.5。6月は43.8である。6月では「製造業の設備投資や土地を探している企業が増えてきている」(四国・設計事務所<所長>)というコメントがあった。

6月調査の日銀短観では、2021年度の全規模合計・全産業の設備投資計画・前年度比はプラス7.1%のしっかりした増加率になっている。設備投資の需要は強く、新型コロナ感染が落ち着けば2020年の反動分も含めて設備投資が出てくると思われる。

6月工作機械堅調、機械受注も同様か

日本工作機械工業会によると、6月分速報値の工作機械の国内向け受注額の前年同月比はプラス91.5%と、3月分プラス18.2%、4月分プラス70.6%、5月分プラス83.2%に続き、4カ月連続の増加になった。新型コロナの影響が出ていた2020年の反動の影響が大きいが、生産設備需要が増加しつつある面もある。

機械受注統計での民需からの工作機械受注も同様の動きになっている。5月分の前年同月比プラス85.6%と、3月分プラス17.0%、4月分プラス71.4%に続き、3カ月連続の増加である。6月分も高めの伸び率が予測され、機械受注(除船電民需)の押し上げ要因になろう。

機械受注(除船電民需)の4~6月期・前期比実績は2009年から2020年までの12年間でみると、上振れ4回、下振れ8回であり、下振れしやすい傾向がある。しかし、2021年は上振れになる可能性が大きい。4~6月期の前期比見通しのプラス2.5%を達成するためには、6月分は前月比マイナス7.4%以上でよい。また、6月分前月比が0.0%なら4~6月期の前期比はプラス5.2%に上振れることになる。4~6月期の前期比は増加になろう。