緊急事態宣言発出下でもたつくGDPに対し、明るい内容の景気指標

宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント
理事 チーフエコノミスト
宅森 昭吉

民間エコノミストの経済見通し「ESPフォーキャスト調査」2021年6月調査によると、4~6月期実質GDP(国内総生産)成長率見通しは37人の平均で前期比年率プラス0.17%、高位8人の平均はプラス1.85%、低位8人の平均はマイナス2.15%となった。2四半期連続のマイナス成長が回避されたとしても4~6月期はもたついた結果になりそうだ。当該四半期中のかなりの期間、緊急事態宣言が10都道府県に出ていた関係で、GDP の過半を占める実質個人消費の平均予測は前期比マイナス0.34%のマイナスになっている。

景気動向指数・一致CI(コンポジット・インデックス)による景気判断は3月分・4月分と2カ月連続で上昇、3カ月後方移動平均は10カ月連続して上昇した。同指数を使った景気の機械的な判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」になっている。

2021年4月分の鉱工業生産指数は100.0(2015年=100)で新型コロナウイルス感染拡大前の2020年1月(99.1)を上回り、2019年9月(102.4)以来の水準に戻った。四半期データで判断するために、5月分・6月分を製造工業生産予測指数で延長すると、4~6月期は105.5となり、2019年7~9月期の101.7以来の水準になる。

高い製造業業況DIと生産の相関係数

2021年6月調査の日銀短観も景気動向指数や鉱工業生産指数などと同じ、しっかりした指標の一つになりそうだ。鉱工業生産指数は製造業の業況判断DI(ディフュージョン・インデックス)と相関がある。21世紀に入ってから2021年1~3月期までの期間で、鉱工業生産指数と大企業・業況判断DIとの相関係数は0.736で、中小企業・業況判断DIとの相関係数は0.647である。

6月調査QUICK短観、ロイター短観などからみた日銀短観予測

2021年6月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIがプラス19程度と3月調査のプラス5から14ポイント程度改善し10四半期ぶりの水準になると予測した。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため3度目の緊急事態宣言が発出された時期がかなり調査期間に重なるため、繊維や食料品など芳しくない業種もあろうが、半導体市場などが活況で、輸出や生産の増加基調継続という経済活動回復の効果が出て、製造業全体の景況感は大幅に改善しそうだ。

また、大企業・非製造業の業況判断DIはプラス4程度と、こちらは3月調査のマイナス1から5ポイント程度改善し、2020年3月調査のプラス8以来のプラスに転じるとみた。通信などは引き続き高めのDIになろう。また小売などでは、緊急事態宣言の影響などで厳しい回答が多いだろうが、足元のワクチン接種加速の動きなどを反映した見方も出るとみた。

2021年6月調査日銀短観の大企業に関する予測には、日銀短観DIと連動性が高いQUICK短観やロイター短観などが参考になる。

6月15日に発表されたQUICK短観6月調査の調査期間は6月1日から6月10日である。製造業の業況判断DIは、3月調査のプラス4から22ポイント改善しプラス26となった。製造業の業況判断DIは2018年10月のプラス28以来の高水準である。また、非製造業の業況判断DIは、2021年3月調査のプラス9から9ポイント改善のプラス18となった。

6月17日に発表されたロイター短観6月調査の調査期間は6月3日から6月14日である。6月調査400社ベースの製造業の業況判断DIは、3月調査のプラス6から16ポイント改善しプラス22になった。2018年12月のプラス23以来の高水準である。また、6月調査200社ベースの製造業の業況判断DIは、3月調査のプラス11から16ポイント改善しプラス27になった。

一方、ロイター短観6月調査400社ベースの非製造業の業況判断DIは、3月調査のマイナス5から5ポイント改善し0になった。また、6月調査200社ベースの非製造業の業況判断DIは3月調査のプラス3から7ポイント改善しプラス10になった。

6月調査日銀短観の中小企業の業況判断DIは、製造業がマイナス5程度と3月調査のマイナス13から8ポイント程度改善すると予測した。非製造業は、3月調査のマイナス11から1ポイント程度改善しマイナス10程度になるとみた。この予測値は、鉱工業生産指数の動向や、景気ウォッチャー調査の企業動向関連の現状水準判断DIなどを参考にして予測した。

6月短観は、直近のQUICK短観とロイター短観、景気ウォッチャー調査などから判断すると、緊急事態宣言発出下でも、大企業・中小企業と製造業・非製造業を掛け合わせた4つのカテゴリーとも最近の判断は3月調査より改善すると予測される。その中で改善が目立つのは大企業・製造業の業況判断DIだ。2020年6月調査での新型コロウイルス感染拡大による景況感の大幅悪化から、4期連続で持ち直し、四半期で見た景気の山である2018年12月調査以来の水準になると予測される。

【図表】日銀短観とロイター短観(400社ベース)、QUICK短観
(大企業)の業況判断DI比較

図表

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(出所)日本銀行、トムソン・ロイター、QUICK