9月調査日銀短観で、2023年度設備投資計画調査はしっかりした増加率に

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

2023年9月の日銀短観で、経済指標予測の対象になる2023年度設備投資計画調査(設備投資額、含む土地投資額)は、大企業・全産業が6月から0.2ポイント上昇しプラス13.6%、中小企業・全産業が6月から5.5ポイント上昇しプラス8.0%としっかりした増加率になった。

GDP(国内総生産)の設備投資の概念に当たる設備投資計画(ソフトウェアと研究開発を含み、土地投資額除く)でみると、2023年度の前年度比は、大企業・全産業が6月から0.7ポイント上昇しプラス13.1%の増加、中小企業・全産業は6月プラス2.4%の1ケタから上昇しプラス11.3%の増加と高い伸び率になった。

【図表】日銀短観(9月調査):2023年度設備投資計画・前年度比(%)

設備投資額

ソフトウェア

研究開発投資額

ソフトウェア・研究開発を含む設備投資額(除く土地投資額)
出所:日本銀行

人出不足の環境下、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資を企業が進めていることで、大企業・全産業のソフトウェア投資は前年度比プラス12.5%、中小企業・全産業のソフトウェア投資は前年度比プラス21.6%としっかりした増加の計画である。

大企業・全産業の研究開発投資額・前年度比はプラス5.6%にとどまった。日銀短観の様々な項目の設備投資計画の前年度比からみると、項目としては掲載されていない、機械などそれ以外の項目の2023年度の設備投資もしっかりした前年度比であると想像できる。

9月調査日銀短観の業況判断DIは予想外にしっかりだったが、TDB 景気動向調査やロイター短観は弱含み

背景として、9月調査日銀短観の景況感がマーケットの事前予測以上に堅調だったことも、しっかりした設備投資計画の背景とみるべきだろう。大企業では製造業・業況判断DI(ディフュージョン・インデックス)がプラス9と2期連続で増加し、2022年6月の水準に戻り、非製造業・業況判断DIがプラス27と1991年11月のプラス33以来31年10ヵ月ぶりの水準になった。

9月の中小企業・業況判断DIも6月からは悪化しなかった。製造業・業況判断DIがマイナス5と6月から横ばい、非製造業・業況判断DIがプラス12と6月から1ポイント改善19年3月以来の水準になった。仮に2ポイント改善していたらこちらも大企業と同じく1991年11月のプラス13以来31年10ヵ月ぶりの水準になるところだった。

しかし、この結果は、他の景況調査と異なった動きである。帝国データバンクが2023年10月4日に発表した調査対象 2万 6991 社、有効回答1万1039 社の2023 年9月調査TDB 景気動向調査によると、9月の景気DIは前月比0.5 ポイント低下の44.4となり、2カ月連続で悪化した。6月の45.0を下回った。

国内景気は、エネルギーなどコスト負担増加や節約志向の高まりのほか海外経済の停滞も加わり、小幅ながら広範囲の地域や業種で下落傾向が続いたという。

また、日銀短観の類似統計である9月ロイター短観も弱含み傾向だ。製造業・業況判断DIは6月から4ポイント低下しプラス4。非製造業の業況判断DIは6月から1ポイント低下のプラス23で日銀短観と真逆に動きである。

日銀短観の計画調査のような力強さは感じられない、最近の設備投資関連指標の実績

しかし、最近の設備投資実績などの指標には日銀短観の計画調査のような力強さは感じられない。景気ウォッチャー調査から作成する設備投資DIは、現状判断が6月52.1、7月53.6、8月50.0。先行き判断は6月52.8、7月60.7、8月54.2とどちらも概ね横ばい圏で推移している。

しっかりした増加率なのは、ソフトウェア投資ぐらいだ。特定サービス産業動態統計調査によると、ソフトウェア開発・プログラム作成の売上高・前年比は4~6月期プラス11.3%、7月プラス9.3%と実績が計画同様しっかりした伸び率になっている。

しかし、ソフトウェア投資を含む、4~6月期の実質GDPの設備投資は前期比マイナス1.0%の減少だ。また、資本財(除く輸送機械)出荷指数の7~8月平均対4~6月平均比はマイナス3.5%の減少、懸絶財出荷指数の7~8月平均対4~6月平均比はマイナス3.4%の減少になっている。

財務省の法人企業統計で直近の企業収益の状況をみると、23年4~6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比プラス11.6%で1~3月期のプラス4.3%に続き2四半期連続の増加となった。

季節調整済の経常利益は4~6月期・前期比プラス9.5%で1~3月期のプラス7.4%に続き2四半期連続で増加。4~6月期の経常利益(季節調整値)は26.9兆円で、2四半期連続で過去最高水準を更新した。

一方、季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比マイナス1.6%と5四半期ぶりに減少し、季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)でみても前期比マイナス1.2%と5四半期ぶりに減少した。先行きの不透明感などから企業収益の割には、企業が設備投資に慎重になっている感じがする。

設備投資の先行指標も弱めの動きとなっている。7月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である船舶・電力を除く民需の機械受注額(季節調整値)は、前月比マイナス1.1%の減少。7~9月期の見通しは前期比マイナス2.6%と2四半期連続の減少見込みだ。内閣府の機械受注の基調判断は「足踏みがみられる」が続いている。

このように日銀短観の計画額に対し、最近の設備投資関連指標には力強さは感じられない。企業収益はしっかりしているのだから、民間企業のマインドが前向きに変化し、日銀短観で明らかとなったしっかりした計画である設備投資を、今後着実に実行して欲しいところだ。