リスク管理機能を強化、「安定性では世界一」の自負

グローバル競争ということでは、香港やシンガポール、上海など、他のアジアの取引所との競争が激化している。JPXはどのようなアジア戦略を描いているのか。

清田 アジア戦略では、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)という巨大経済圏がポイントになる。前者の中国は、昨夏に中国株が急落した際に、空売り規制を発動したり、大半の銘柄が売買停止になったりするなど、先進的なマーケットとはいえない。高いポテンシャルはあるものの、現時点では情報収集だけにとどまっている。

ASEANはシンガポールをはじめ、タイやマレーシア、インドネシア、フィリピンなど、それなりの歴史を持つ取引所がある。シンガポール取引所のように競合関係にありながら、場合によっては協力もしていくパートナーのような関係を構築していきたい。

直近では、ミャンマー初の証券取引所の開設を支援した。大和証券グループの大和総研とともに出資から取引所のルールづくり、システムの導入まで全面的にサポートし、2015年12月9日にヤンゴン証券取引所を開設する運びとなった。

取り扱い商品の相互提供も進めている。例えば台湾のTWSE(台湾証券取引所)では、2015年9月からJPXのTOPIX関連ETFが上場。日本でも、TWSEを代表する株価指数のTAIEX(台湾加権指数)先物の上場が内定している。こういった商品の相互上場などを通じて、他の取引所との関係性を深めていきたい。

証券取引所は国家インフラの一つである。欧米のように米国内やEU内に複数の証券取引所が存在しているならまだしも、1つの国に1つの証券取引所しか存在しないところでは、M&Aによる証券取引所の合併は起きないだろう。JPXでも証券取引所のM&Aは選択肢にはなく、商品の相互上場や上場ルールの設定協力などを通じて、長期的な視点でともに成長していく関係を目指す。

2015年9月に株式売買システム「アローヘッド」をリニューアルした。

清田 2005年12月の「ジェイコム株誤発注」のときは、株式売買システムの不具合(バグ)が問題になった。それを教訓に2010年に誕生したのが初代のアローヘッドであり、非常に安定したシステムだった。8月に中国株が急落したときには短時間に大量の注文が入ったが、アローヘッドは問題なく処理することができた。マーケットが過熱しているときでも安定稼働できる裏付けとなった。

とはいえ、システムの不具合はいつ起きるか分からないことから、新生アローヘッドではリスク管理機能を強化した。システム障害が起きた際に、注文を自動的に取り消す「コネクション異常切断時注文取消機能」、取引参加者の指示によって発注された注文を自動的に取り消す「注文抑止・取消機能」などの機能を新たに加えた。

システムの処理スピードも初代アローヘッドの2倍以上に向上したが、我々は速さではなく、安定性に重きを置いている。システムの安定性では、世界一のシステムといえるだろう。