高田 創
岡三証券
グローバル・リサーチ・センター
理事長
高田 創

今回は資産価格下落なき初の「危機」

日本のバブル崩壊、リーマンショックでは金融の制約から資産価格が大幅に下落したことがグローバル企業に大きな影響を与えた。今回、コロナショックでは、2020年3月以降、世界的規模での財政・金融政策に伴い資産市場を支えたことが、その後の大手企業を中心とした回復の大きな要因になった。

バブル崩壊やリーマンショックでは株式時価総額の大幅な下落が生じたが、今回、日経平均は30年ぶりの水準まで上昇するなど株価が維持されている。同じ「危機」とされながら過去の「危機」と大きな違いが存在する。

資産価格上昇による投資拡大効果

再考ESG投資

今回のコロナショックの構図は、資産価格上昇により資本を温存した企業やファンドへの影響が注目される。以下の図表で、資産価格上昇は下記プロセスでの波及効果、すなわち、

「資産価格上昇 → 実質自己資本比率上昇 → リスク許容度上昇 → 投資拡大(M&Aも含む)」

となり、実体経済や資本市場に前向きな動きを与えうる要因になる。同様に、資産効果として家計などにも消費拡大の影響を及ぼしうる。

【図表】資産価格上昇と実質自己資本比率上昇の概念図

【図表】資産価格上昇と実質自己資本比率上昇の概念図
(出所)岡三証券

企業への資産効果

以上で生じる企業の実質自己資本比率上昇は、企業活動としては投資拡大、家計では消費拡大につながりうる。

まず、企業において実質自己資本比率が上昇すればリスク許容度拡大が投資に結び付く可能性がある。今後を展望すれば、コロナショックに伴う直接的な影響として活動自粛など、投資がマイナスの影響を受ける面があるものの、資産効果に伴い時間を経つつ次第に回復する可能性がある。株式時価総額の拡大でリスク許容度が上昇することで対外投資も拡大に向かいやすい。

家計への資産効果は限定

理論的には、株式・不動産市場を中心とした資産効果によって消費拡大も生じやすい。なかでも資産価格上昇で一般的には高額消費が拡大しやすいが、今次局面では超低金利で預金の利払いが低下したこともあり、企業ほど資産効果を受けにくい。

また、コロナショックで直接的な影響を受けやすい「コロナ7業種」に雇用面で関連する関係者の割合が大きいこともあり、家計への影響は二極化しやすい。さらに、日本の家計金融資産の特徴として現預金保有比率が欧米に比して高いこともあり、資産効果が欧米ほど影響しにくい。日本においても株・不動産の保有の有無による格差が生じやすい。

1980年代半ば、円高不況後に類似した環境も

以上で議論された資産効果は、1980年代のバブル経済局面ではよく指摘されたことだった。1980年代後半に設備投資が大幅に拡大した背景には、資産価格上昇による建設投資拡大があった。また、バブル期には高額消費の拡大も顕著で、当時流行した高級車の名前をとった「シーマ現象」などが指摘されたこともあった。

一方、バブル経済に向かい始めた1980年代半ば、1985年のプラザ合意による急速な円高もあり、「円高不況」として鉄鋼・造船等、大手製造業を中心とした構造不況問題が深刻な課題となり、不況色が生じた面もあった。そうした「不況色」のなか、金融緩和に伴う資産価格上昇が生じてきたのが1985年、86年頃の状況である。

以上の金融緩和は日米貿易摩擦環境下、「内需拡大」が求められたことによる面も大きかった。今日の環境は1980年代半ば当時に類似する面もあり、実体経済上、当時の主力産業とされた製造業の不況の側面が色濃く存在するなか、金融緩和を中心として資産価格が底上げされた環境にあった。

国民世論の「バブル国民感情」に注目を

今後の課題は、今日生じている資産価格上昇が1980年代後半のようなバブル状況にまでなるかにある。当時、戦後の一貫した右肩上がり神話が存在したなかで金融緩和を中心にした環境がバブルをもたらした。一方、今日、緩和期待が長期化することへの安心感(ユーフォリア)が資産市場の金融不均衡を拡大が世界規模で生じやすい面は否定できない。

ただし、重要なのは政策面での「バブル国民感情」すなわち、国民世論がバブルをどのようにみているかにある。今後の市場を展望するには、実体経済状況を経済指標などで確認するにとどまらず、資産価格に関する国民の意識、「バブル国民感情」も含めて、「時代の空気」を幅広く検証していく必要がある。また、その後「バブル経済」に陥った状況からの教訓は何であったかも改めて検討する必要があるだろう。

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