着実な回復軌道をたどる日本の輸出

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2020年7~9月の実質GDP(国内総生産)は前期比年率22.9%増と新型コロナウイルスの感染拡大によるショックからの持ち直しを確認する結果となったが、内需の戻りは鈍く、国内民間需要は4~6月の落ち込みの3割程度を取り戻しただけだった。一方、7~9月の輸出は前期比年率31.2%増となり、景気の持ち直しに大きく寄与した。4~6月の大幅減の反動といった側面も否定できないが、月次ベースでみても着実に回復している。

日本銀行が公表している実質輸出指数は、2020年10月に109.1とコロナ禍前の2019年12月の水準まで持ち直している。夏場以降、個人消費が足踏み状態で推移していることから、10~12月の内需も緩慢な回復にとどまるとみられるが、輸出は10~12月も前期比で高めの伸びを維持し、景気回復をけん引すると予想される。

輸出回復の背景は世界的なIT関連需要の拡大

輸出の回復に寄与しているのが自動車と電気機械である。自動車は2020年4~5月の急激な落ち込みからの反動増による影響が大きいが、電気機械はコロナ禍でも目立った落ち込みはなく、夏頃からは一段と水準を切り上げている。この背景にあるのが循環的なIT(情報技術)関連需要の回復である。シリコンサイクルを示す世界半導体出荷額は2019年半ば頃に底に回復に転じ、2020年からは循環的回復局面に入っている。今回の局面では、次世代通信規格である「5G」が世界的な普及期を迎えていることが寄与している。

また、コロナ禍におけるテレワークや学校のオンライン授業、ネット通販の拡大などIT需要を誘発する動きが広がっていることも、電気・通信機の需要を押し上げている。日本にはキーデバイス(基幹部品)の生産において高いシェアを持つ企業が多く、IT需要の拡大は日本の輸出回復の追い風になっている。

アジア向けをけん引役に輸出は今後も増勢を維持

一方、米国や欧州を中心に新型コロナの感染が再拡大していることはリスク要因である。米国や欧州諸国では部分的なロックダウン(都市封鎖)に踏み切っており、世界経済が下振れした場合には自動車や資本財の輸出に影響が波及する恐れがある。もっとも、ロックダウン後も工場の稼働は維持されているうえ、感染再拡大が深刻な欧州向けの輸出は、日本の全輸出の10%程度に過ぎない。

【図表】仕向け先別の実質輸出指数の推移

(出所)日本銀行

日本の輸出のカギを握るのは中国を中心としたアジア経済である。輸出の6割弱はアジア向けであり、新型コロナの封じ込めに成功している中国では景気回復が続いている。特に、中国や台湾にはスマートフォンやパソコン、半導体などの製造拠点が集積しており、IT需要の拡大に伴ってアジア向け輸出は増勢を維持している。世界的な感染再拡大がリスク要因であることは間違いないが、アジア地域における感染状況や循環的・構造的なIT需要の拡大を考慮すると、輸出全体への影響は限定的にとどまる公算が大きい。