個人消費は回復に転じるも夏以降は足踏み

角田 匠(信金中央金庫)
信金中央金庫
地域・中小企業研究所
上席主任研究員
角田 匠

2020年7~9月の実質GDP(国内総生産)は前期比年率で18%程度のプラス成長に転じたとみられる。企業収益の悪化で設備投資は依然として低調だったものの、個人消費と輸出が持ち直したためである。もっとも、コロナショックで落ち込んだ4~6月(前期比年率28.1%減)の反動といった側面が強く、金額ベースでみると、減少幅の半分程度しか取り戻せないと予想している。

個人消費は7~9月の景気回復をけん引したセクターといえるが、月次ベースでみると、6月にかけて急回復した後、7月以降は足踏み状態が続いている(図表)。夏場にかけて新型コロナウイルスの感染が再拡大したことで、家計の消費行動が再び慎重化したことが背景にある。また、国内観光の需要喚起を目的として始まった「GO TO トラベル」ついては、スタート時点で東京発着の旅行が除外されたことから効果は限定的だった。7~9月のGDP統計は個人消費の持ち直しを示す結果となろうが、必ずしも順調な回復軌道をたどっているわけではない。

【図表】消費総合指数の推移

消費総合指数の推移
(出所)内閣府、太線は四半期平均

インバウンド消失で観光需要は当面も低調

入国制限によるインバウンド需要の消失もサービス業の活動に深刻な影響を及ぼしている。コロナ禍前の訪日外国人によるインバウンド消費は、2019年10~12月に年換算で4.7兆円に達していた。これは国内家計最終消費の1.9% に相当し、インバウンド需要の消失によって、2020年度のGDPは0.9%押し下げられる。一方、出国日本人による海外での直接購入(アウトバウンド消費)も年換算で2.0兆円と規模が大きい(GDP比0.4%)。海外渡航制限が続くなか、この規模の消費が国内の観光関連産業に振り替えられると、インバウンド需要の消失による押し下げ幅は年間で2.8兆円、GDP比では0.5%まで縮小する計算になる。

もっとも、新型コロナウイルスの感染終息は依然として視野に入っていない。むしろ足元では感染者の増加ペースが加速しており、第3波とみられる感染が広がり始めている。10月からは東京発着の旅行が「GO TO トラベル」に追加されたものの、海外旅行から国内観光へのシフトは限定的にとどまると考えられる。

雇用・所得環境の悪化が下押し圧力に

旅館や飲食店など個人向けサービス業の大部分は中小・零細企業であり、経営基盤が脆弱な業種である。このところ客足は徐々に戻り始めているとはいえ、すでに倒産や廃業の危機に瀕しており、今後は解雇や雇止めなどの動きが広がってくる可能性がある。

また、企業収益の悪化を受けて年末賞与を減額する動きも相次いでいる。年度上期は特別定額給付金の支給が家計の支えとなったが、この先は雇用・所得環境の悪化が消費活動を抑制する要因となろう。日本経済は今年4~6月の最悪の状況からは持ち直すものの、今年度下期も停滞感の強い状態が続く見通しである。