2つの潜在シナリオについて戦略的オプションを比較検討

アジアのウェルス・マネジメント業界の将来的な可能性は、パンデミック前に見込んでいた水準より下振れするだろう。ウェルス・マネジャーは、事業計画を再評価し、構造改革や戦術的ステップを熟考する際には、いくつかのシナリオに沿って自社がとり得る選択肢を検討することが重要である。

マッキンゼーでは、アジアのウェルス・マネジャーの潜在的な成長機会を、2つのGDP成長シナリオに照らしてモデル化した(図表5)。図中、A3の「早期回復」シナリオでは、ほとんどの国が商業活動を再開できる程度にまで感染を減速させることに成功し、1~2年でパンデミック前の生産水準にまで回復する。A1の「緩やかな回復」シナリオでは、感染拡大が長びき経済に深刻な影響を与え、経済回復に2~3年を要する。

【図表5】マッキンゼーは、アジアの潜在的な成長機会を、9つの成長シナリオのうち2つのシナリオに照らしてモデル化

マッキンゼーは、アジアの潜在的な成長機会を、9つの成長シナリオのうち2つのシナリオに照らしてモデル化
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資料:In the tunnel: Executive expectations about the shape of the coronavirus crisis(2020年4月のマッキンゼーの記事)

経済が回復に向かうまでどれくらい時間がかかるかは、ウェルス・マネジャーがアジアの投資家の個人金融資産の成長軌道を踏まえ成長のポテンシャルを見極めるうえで重要な要素である。シナリオによっては、アジアの本業界における今後5年間の収益プールは過去の予想を大きく下回ることになる。

マッキンゼーの推計では、アジアにおけるウェルス・マネジメントの収益プールは2019年度末時点で900億ドルに達しており6、パンデミック前は2025年には新たに約700億ドルの収益プールを創出すると予想していた。一方、世界的な景気減速シナリオを用いたマッキンゼーの最新の予測では、2025年の収益プール増加は約250億ドルで、2025年の予想より30%低くなる(図表6)。

【図表6】A1「緩やかな回復」シナリオでは、新型コロナウイルスの影響により2025年にはアジアのウェルスマネジメントの収益は約30%減少

A1「緩やかな回復」シナリオでは、新型コロナウイルスの影響により2025年にはアジアのウェルスマネジメントの収益は約30%減少
1 オンショアおよびオフショアを含む。中国の投資家はアジアの個人金融資産の約35%を占める。このモデルでは全シナリオで個人金融資産シェアが一定であると想定
資料:マッキンゼー・プライベートバンキング調査、マッキンゼー・バンキングプール、マッキンゼー分析

さらに、2025年には、オンショアの収益プールの50~60%を富裕層とマス富裕層セグメントが占めることが予想される。こうした顧客セグメント構成の変化に伴い、業界のコスト構造も変化する可能性が高い。ウェルス・マネジャーは、運用モデルをどう進化させれば、顧客セグメントのニーズの変化に合わせてチャネルを合理化・最適化できるのかを、検討する必要がある(図表7)。

【図表7】2025年までには、オンショアの収益プールの50~60%を富裕層とマス富裕層が占めると予測される

2025年までには、オンショアの収益プールの50~60%を富裕層とマス富裕層が占めると予測される
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資料:マッキンゼー・プライベートバンキング調査、マッキンゼー・バンキングプール、マッキンゼー分析

各シナリオは、COVID-19危機の影響により、アジアのウェルス・マネジメント業界の収益プールが2020年初期以前の予想をほぼ確実に下回ることを示唆している。一方で、投資家の資産レベルは2023年までに歴史的な成長率まで回復することも示している。したがって、各ウェルス・マネジャーは、顧客ニーズへの対応や市場シェアの獲得に向けて、これまで以上に積極的に競争する必要がある。

例えば、オフショア地域のグローバルなウェルス・マネジャーは、現行のHNW+顧客のウォレットシェアを維持しつつ、オンショアの市場機会や市場参入、あるいは事業成長の方法を特定して優先的に取り組むことができる。反対に、オンショア市場を狙うリテールバンクや保険会社は、拡張可能かつ低コストのビジネスモデルの中心としてデジタルを活用したアドバイザリーを提供し、富裕層やマス富裕層における機会獲得を強化することができる。

レポート全文はこちらアジアにおけるウェルス・マネジメント:ポストコロナの「Next Normal」(PDF)
マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社「知見」