消えた物価目標のモメンタム
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主任エコノミスト
藤代 宏一(ふじしろ・こういち)
2005年4月第一生命保険入社。2008年4月みずほ証券出向。2010年4月第一生命経済研究所出向。2010年7月内閣府経済財政分析担当にて2年間経済財政白書の執筆、月例経済報告の作成を担当。2012年7月副主任エコノミストを経て、その後第一生命保険より転籍。担当は、金融市場全般。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、2018年~参議院予算委員会調査室客員調査員
2020年4月27日の金融政策決定会合では、日銀の政策の最優先目標が「物価」から「金融システムの安定維持」に切り替わるという重要な変化があった。それはイールドカーブ・コントロール政策にかかるフォワードガイダンスが書き換えられたことから読み取れる。
従来の「政策金利については『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧(おそ)れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移する」というフォワードガイダンスは「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移する」というシンプルな表現に変更された。
イールドカーブ・コントロール政策の継続の条件から「物価安定の目標に向けたモメンタム」が消えたことの意味は大きい。かつて、日銀の金融政策は「消費者物価指数の前年比上昇率が1%を下回ったら追加緩和」などといった具合に比較的明快なリンクがあったが、もはや物価の重要度合いはさほど高くなくなったと考えるべきであろう。ある意味、日銀は一向に達成の見込みが立たない2%の物価目標に対するコミットメントを絶好のタイミングで緩めることに成功したと言える。
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