より複雑化する金融市場においてのリモートワーク環境では、強靭で安全、そしてスケーラビリティのあるテクノロジーが金融機関に必要になるとの見通し
ブルームバーグLP アジア太平洋地域代表 ビング・リー

ビング・リー氏
ビング・リー
2017年6月にブルームバーグに中国営業代表として入社。2020年7月1日から現職。以前はBank of Chinaにて債券部門統括、Tandem Global Partnersにてパートナー兼ポートフォリオマネジャーを担当。

新型コロナウイルスの感染拡大が世界中の市場や経済に打撃を与え続ける中、金融業界では幅広い局面で構造的転換が起きています。いくつかの市場は再開しているものの、コロナ禍によって、世界の主要な金融センターはリモートワーク体制への移行を余儀なくされる事態となりました。銀行や投資会社は、運用面での強いストレスに直面しながら、バーチャルな接点を軸とした顧客エンゲージメント戦略を展開していかなくてはなりません。

このような不確実な状況下で、全ての企業が今問うべきなのは、「コロナ禍による変化をどのように唯一無二の機会として活用できるか」そして、「新型コロナウイルス感染症が将来のアジアの金融機関にもたらす恒久的な影響とは何か」という点です。

自動化されたデータと技術の台頭

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、リモート環境における仕事や金融に劇的な変化をもたらしました。証券取引所から投資銀行までを含む広範な金融セクターは、これまで経験したことのない規模での在宅勤務へシフトするなか、従業員がネットワークに常時接続でき、適宜に必要な情報を受け取り、生産的になれることを保証しなければなりませんでした。

私たちは、アジア太平洋地域で上海やシンガポールなどの金融機関が、どのようにモバイルテクノロジーやリモートテクノロジーを事業のために導入しているか、さらにどのように自動化されたデータや取引時のトランザクション技術を活用しているかを見てきました。

特にコーポレートバンキングや資本市場のセクターは、慣習的に現場であるトレーディングフロア、オフィス、そして物理的なインフラに依存していました。営業とトレーディングチームが同じフロアでトレードの売買・管理をし、安全なトレーディングシステムやコンプライアンスシステムを活用していたのです。ですが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、リモートワーク、ビデオ会議や自宅でのオンライントレーディングが前例のない形で試験的に導入されています。

長期的には在宅勤務がより恒久的なものとなり、企業はどのように自社のテクノロジーを複雑なリモートワーク環境下においても強靭で、安全、スケーラブルにできるか考察する必要性に迫られるでしょう。そして必然的に、規制当局、政府が主導となり議論が展開されていく、と見ています。

市場のボラティリティ(変動性)と流動性の増加に伴い、一日にマーケットデータの動きが1000億超から2500億超へと跳ね上がる、といったようなこともあります。そういった市場では、データがマーケットの変調を察知する上で、肝要なものとなりつつあります。そして自動化されたデータこそが、確実に機関投資家に状況をいち早く理解できる情報やインサイトを与え、リスク管理とデータに基づいた投資判断を補助します。企業ごとに全く異なるバーチャルな環境があり、さらにそれらの変化は著しい金融市場では、いかにデータを提供、消費、活用、共有していくのかといった点において、急激な変化が起きることが予測されています。

例えば、ブルームバーグでは、この歴史的水準に達したボラティリティの中でデータ集計に苦戦している顧客をサポートすべく、新しいデータマネジメントサービスである「データライセンスプラス」を直ちに開始しました。この新しいツールによって、データを活用する投資家がマーケット情報を今まで以上に簡単に検索・閲覧・活用できるようになるのです。

目的を伴ったイノベーション

新型コロナウイルス感染拡大を受け、コーポレートファイナンス業界は運用や戦略の見直しを遂行しています。収益を生み、戦略的な運用に対し、運用コストや運用リスクは増加しています。銀行は、バランスシートや自己資本比率規制などの課題に直面しており、テクノロジーの運用の優劣によって他行を抜き去るか、遅れてしまうかという激しい闘いに挑んでいます。

これらの課題は、コロナ禍で無視することができなくなってきていると同時に、金融機関を新しい投資機会に適合するクリエイティブなアイデアの探求に強制的に導いてもいます。危機的状況下で、偶然ではなく目的をもって創り出されるイノベーションは、金融機関が競争に打ち勝つ強みを獲得する追い風となるのです。

弊社の商品の一つで、新型コロナウイルスの発生を追跡し、地理的位置で起きる物理的な現象に対する潜在的リスクを、投資家が視覚的に把握するために使われるツール(MAP VIRUS)があります。1月下旬のCOVID-19発生時に新たな機能として追加されて以降、使用率が4倍に増加し、対前年比では6倍となりました。

バーチャルな労働環境における新しい顧客エンゲージメントモデル

多くの金融機関にとって、コロナ危機はカスタマーサービス、社内システムやアプリケーションの導入など、あらゆるレベルでの顧客エンゲージメント戦略に影響を及ぼしています。このような不確実で破壊的変革が起きているときには、顧客とのリレーションシップは中心に置かれなくてはなりません。そして、生き残り、最終的に繁栄を遂げるために、金融機関は革新的な顧客エンゲージメント戦略を見出し、新しい収益モデルの創造と複雑な問題の解決に繋げていかなくてはなりません。この局面では、まさにデータとテクノロジーが戦略の核を担うことになります。

ブルームバーグでは、顧客の事業継続と世界の金融市場の継続的なオペレーションをサポートすることを目的に、24時間体制のカスタマーサービスと堅固で強靭なテクノロジーシステムを提供することを直近の数か月間で優先的に取り組みました。私たちは社内で一貫したシステムやデータ共有を可能にするような複雑で大規模プロジェクトを、アジア太平洋地域全体で継続的に遂行しており、そのようなプロジェクトには、アジアを代表する機関投資家10社と稼働させた取引執行、オーダーマネジメントシステムを含みます。

ブルームバーグのバイサイドオーダーマネジメントシステムを導入したアジア地域の主な機関投資家

  • 富邦ファンドマネジメント香港
  • 山西証券(シャンシー・セキュリティーズ)インターナショナルアセットマネジメント
  • 海通国際証券(ハイトン・インターナショナル・セキュリティーズ)シンガポール
  • DSPインベストメント・マネージャーズ
  • イスラム・ブルネイ・ダルサラーム銀行

プレスリリース:ブルームバーグのバイサイド・ソリューションをアジア太平洋地域を代表する資産運用会社10社が採用(PDF)

将来の見通し

コロナ禍は明らかにコーポレートファイナンスの世界に破壊的な変革をもたらしました。将来的には、スケーラビリティのあるテクノロジーや自動化されたデータツールが、著しく発展し、急速に普及を遂げていく一方で、金融機関には目的を伴ったイノベーションや新たにオペレーショナル・レジリエンス(強靭化)に注力した顧客サービスモデルの再構築が求められる、と予想しています。おそらく将来の金融市場は、市場参加者の想像もつかないようなスピードで、よりモバイル化され、機動的で、顧客中心のものとなっていくでしょう。

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