長期金利

脱デフレと世界経済の回復で金利上昇

「米連邦準備理事会(FRB)の政策が効いていて、米国の長期金利は低位安定。新興国経済の減速は予想以上。加えて日本では、政治的要因、日銀への圧力が先鋭化された1年だった」。こう振り返るのは、バークレイズ証券のディレクター、森田長太郎氏。

米10年国債の金利は2011年後半、3.0~3.5%から2.0%前後へ大きく下落。2012年は大きな跳ね上がりもなく、1.5~2.0%で推移した。欧州債務問題、中国経済の減速など、世界経済の“体温低下”を追加的に織り込むかたちで、日本の長期金利も4月以降、年後半にかけて下落した(図表4)。

新政権誕生後、日銀への追加金融緩和圧力がいっそう強まるとの観測から、新発10年物国債の利回りは2012年12月に0.7%を下回り、2003年6月以来9年5カ月ぶりの低水準をつけた。2013年も大きくレンジは変わらないと森田氏はみている。

「新発10年物国債の利回りは、0.8%を軸に上限は1.0%に到達しない。下限は0.7%。一時的には0.7%を割り込む可能性も考えられる」(森田氏)

外部環境に長期金利を大きく動かす要因は見当たらない。注目されるのは、国内の政策運営だ。

「限られた政策余地のなかで、日銀はどれに手をつけて、どれに手をつけないのかを、国内投資家は興味深く見ている。あっという間にインフレ率が2%に上がる手段など現実的にはない。もう1つは、2013年1月の補正予算。一度野党化した自民党政権が、どのような財政政策をとるのか、その内容が試金石となる」(森田氏)

「2012年は、思っていた以上に金利が下がった」と話すのは、三井住友銀行のチーフ・エコノミスト、山下えつ子氏。

国内要因では、日銀の金融緩和圧力が強く、デフレから脱却しない限り、長期金利は上がらない構造になっている。これまで存在した時間軸の長さが、さらに伸びた印象をもったという。

海外要因では、長引く欧州債務問題が想定以上のかく乱要因となり、リスクオフ相場が続いた。投資家の資金の一部が日本の国債に流れ込み、年初1.0%だった新発10年物国債の利回りは、0.7%を下回るまで低下した。

「リーマン・ショック以降の金融危機がいまだに続いている。投資家のあいだにリスクテイクの姿勢は戻らず、世界的に見て資金の偏在が著しい。2008年から5年が経過し、本来ならば景気が回復し、長期金利ももう少し上がっていいはずだが、危機的状況から脱していない」(山下氏)

しかし、政権交代で状況は変わりそうだ。安倍政権の目指す脱デフレを意識すれば、長期金利は上昇しやすくなる。財政出動に伴う国債の発行規模がどの程度になるのか、債券市場の関係者たちは注目している。財政の規律が緩み、財政再建が後にずれるイメージが出てくれば、長期金利には上昇圧力となる。

「景気浮揚策が、公共事業への投資なのか、そうでないのか、規模や財源はどうなるのか、これから評価される。財政の規律が明らかに緩むような大盤振る舞いはしないと見ているので、2013年の長期金利は0.7%から、上限はせいぜい1.2%」(山下氏)

2013年は、世界経済も緩やかに回復することが見込まれている。国債から株式に資金シフトが進めば、債券価格は下がり、海外の金利は上がる。これに連れて、日本の金利も上がりやすくなる。新しい政策の効果が、どの程度得られるのか大きな注目を集めることになりそうだ。

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本特集の取材は、2012年11月30日~12月21日にかけて行った。年末年始にかけて相場が急展開したことから、コメント内容や予想数値の変更が相次いだため、締め切り直前まで可能な限り対応した。ちなみに、2013年1月10日時点の相場は、以下の通り。

●ドル/円(東京) 88円28銭~29銭
●日経平均株価 1万652円64銭
●長期金利 0.82%

季刊誌であるがゆえに、雑誌が発行される1月下旬には、さらに相場が動いている可能性もある。それでも予想記事を掲載したのは、相場の方向性とその背景にあるロジック、大局観を伝えたかったからである。ボラタイズ(急変)する相場の動きに翻弄されることなく、市場の本質をしっかりと見定めていきたい。