政権交代をきっかけに、円安・株高の流れが本格化との報道が目立つ。円相場は対ドルで1ドル=88円台まで下落し、日経平均株価は約8カ月半ぶりに1万円を回復した。「安倍トレード」と揶揄される相場への支持は、はたしてどこまで持続するのか?相場の基調は大きく変わったのか、それとも一時的な現象なのか? 為替(ドル/円相場)、日本株、長期金利の3つについて、2012年の総括と2013年の見通しを市場関係者に聞いた。
(堀田栄治/取材日:2012年11月30日~12月21日 ※一部内容は、2013年1月11日までの市場動向を受けて変更した。)

為替相場(ドル/円相場)

日本の貿易収支と米景気の見通しがカギ

2012年の円相場は、対ドルで1ドル=76円台でスタート。2~3月は欧州中央銀行(ECB)の長期資金供給オペ(LTRO)を好感し、リスクオンで83円台まで下落。ギリシャ選挙や米国の経済指標の低迷で、夏場にかけてはリスクオフ=円高に転じた。8月のECB南欧国債の買い入れ表明、米国経済に改善の兆しが見えると、じわり円安に向かい、11月後半の安倍トレードでその勢いは加速。年初来安値となる86円台で年末を迎えた。

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「(11月までの)横ばい相場のなかで、大きな地殻変動が起きている」。こう話すのは、シティバンク銀行のチーフFXストラテジスト、髙島修氏だ。

ドル/円相場は日米の政策金利差が2%を下回る水準では、円高・ドル安に推移する傾向がある。しかし、現在は金利差が0%近くにあるにもかかわらず、円高・ドル安には動いていない。過去に経験したことがない現象が生じている大きな理由として「国際収支の悪化」をあげる(図表1)。

髙島氏は、国際収支のなかでも「経常収支(貿易収支+所得収支)」と「直接投資」の合計を「基礎収支」と名づけて注目している。所得収支を中心とする経常黒字を、急増してきた直接投資が相殺し、近年は基礎収支の赤字が積み重なっている。これが円高を抑制する要因になっているのだ。

転換点となったのは、2011年3月の東日本大震災。原発の停止を火力発電で代替したため、燃料エネルギー関連の輸入が急増。長引く円高に加え、エネルギー問題の発生により、製造業などの海外進出に拍車がかかった。貿易収支も直接投資も海外へ出ていく動きが強くなれば円安方向への圧力となる。

「向こう1年間で最も注目しているのは国際収支の変化、とくに貿易収支。売買のボリュームが小さいので、影響は小さいという声もあるが、底流では為替需給を反映している」(髙島氏)

2013年も引き続き、1兆円程度の貿易赤字が見込まれる。加えて、新政権の掲げる経済財政運営は、景気悪化を補正予算の規模拡大で立て直す手法。いずれも円に対してはネガティブに作用する。

しかも、長期的に見れば、こうした日本の国際収支は高齢化に伴う貯蓄率の低下などの人口動態要因などを反映している可能性が高い。「2013年は1ドル=82?92円を中心に推移する」というのが髙島氏の見方だが、日米金利差が0%近くにもかかわらず進む円安は「超長期的な円安の単なる手始めに過ぎない」と髙島氏は語る。

「どん詰まり状態だったグローバル市場に薄明かりが差すと、日本の明るさが際立つ場面がある」と話すのは、ドイツ証券のチーフ為替ストラテジスト、田中泰輔氏。

2012年、米国経済は減速しつつも底堅く、アジアなどの新興国も年央から景気の底入れが見られた。ユーロ圏は、債務問題での「危機(Crisis)→対策(Counter-action) →安心(Comfort)→慢心(Complacency)→危機→」の4Cサイクルで揺れ動いたが、危機回避の道筋が見えてきた。2013年は、米国経済に自律回復の兆しが見られ、新興国経済も緩やかに持ち直す。こうしたグローバル環境で円安地合いが醸成されよう。

田中氏によると、米金融緩和局面のドル/円は日米の金利差に沿って動く傾向がある。米国の景気悪化時には金利低下に沿ってドル安・円高になる。景気回復で金利先高観が持続すると、ドル/円は度々金利が示唆する水準より高く跳ねる展開を繰り返すが、この上下動を均した底流のトレンドはまだ金利動向に沿っている(図表2)。

過去5年は米2年物金利の低下に沿って円高・ドル安になった。この逆風下で日本の政策は円高抑止に無力だった。しかし、米国と新興国の経済が持ち直し、円安になれば日本株もアウトパフォームする。安倍政権の積極的な金融緩和の推進は、追い風の下なら円安・株高を促せる。7月の参院選に向けて、ドル/円を85~90円に保てれば、安倍政権も高い支持率を保てるだろう。

「カギは引き続き米国経済。新興国の回復にとっても、安倍政権の信認持続にとっても、『財政の崖』を越えて、米国が2.5%ペース以上の経済成長に回復することが1つの目処だろう」

「2013年は、1ドル=85~90円付近で相場の時間調整があっても、米景気回復と安倍政権の政策ステップを見ながら90円台前半をうかがうと見ている。ドル/円相場の8年サイクル説を単純に延長すれば、2011年の75円の底値から、2015年には100円に絡むだろう」(田中氏)