• 高市政権による現代貨幣理論(MMT)の実践
  • 21世紀の日銀による政府債務のファイナンス
  • 20世紀には財政投融資という名の隠れ借金
  • JGBクライシスか円キャリートレード再構築か
  • 超円安が予見する日本のハイパーインフレ

高市政権による現代貨幣理論(MMT)の実践

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

現代貨幣理論(MMT)を信奉する高市早苗氏が首相に選出される。減税を党是する維新との準連立、不安定な少数与党、バラマキ一色の野党では、次の総選挙に向けて、財政規律は今後一層タガが外れる公算が高い。

筆者の見方によれば、わが国政府は、すでに20世紀から、家計部門の潤沢な金融資産をバックに、財政投融資や日銀ファイナンスを通じて、MMTを実践してきたということができる。高市政権の誕生は、わが国におけるJGB(日本国債)クライシスやハイパーインフレのリスクを高めると考えられる。ドル円相場が、中長期的に200円を超えて上昇する可能性が一層高まったといえる。

21世紀の日銀による政府債務のファイナンス

2025年第2四半期において、わが国中央政府の負債はGDP比171%(国債が同166%、財政投融資が同5%)とG7(先進7か国)中最悪となっている。しかも、同85%の国債を日銀が保有している。これは、家計部門が民間金融機関や社会保障基金に預託した金融資産(2025年第2四半期現在同349%)が、当人たちの意思と関係なく、日銀を通じて、強制的に中央政府の負債のファイナンスに充当されていることを意味している。

■わが国の中央政府の負債の推移(対GDP比)
わが国の中央政府の負債の推移(対GDP比)
出所:日本銀行
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20世紀には財政投融資という名の隠れ借金

同様のことは、20世紀後半にも起きていた。1999年第4四半期においては、わが国の中央政府の負債はGDP比151%に達していたが、国債は同68%に過ず、残りの同83%が財政投融資という不健全な隠れ謝金に負っていた。すなわち、中央政府は、国民が郵貯・簡保や社会保障基金に預託した金融資産を勝手に借用して、自らの負債の半分以上を賄っていたことになる。

JGBクライシスか円キャリートレード再構築か

筆者の見方によれば、わが国政府は、すでに20世紀から、家計部門の潤沢な金融資産をバックに、財政投融資や日銀ファイナンスを通じて、長期金利の高騰を回避しつつ、MMTを実践してきたということができる。

今後、高市政権下財政のタガが一層外れる中、日銀が量的引き締めを断行すれば、JGBクライシスによって日本売りが誘発される可能性が高まる。日銀は、それを回避するために大量国債保有を継続せざるを得ず、早晩、海外ヘッジファンドによって大規模の円キャリートレードが再構築されるであろう。

超円安が予見する日本のハイパーインフレ

2025年8月におけるドル円相場148円に対し購買力平価が87円と、円はドルに対して70%も過小評価されている。しかし、現在超円安だからといって、今後急激な円高になるとは限らない。

当初貿易理論であった購買力平価仮説は、後年通貨数量説を用いてその有効性が論じられるようになった。この観点から現状を説明すれば、日銀の異次元緩和による通貨供給量の爆発的な増大にも関わらず、わが国の物価水準が極めて低位安定推移している。一方、ドル円相場は、超低金利の結果、主に円キャリートレードというオフバランス取引を通じて、著しいドル高円安となっている述べることができる。

今後、高市政権下、政府による財政急拡大と日銀による国債の大量ファイナンスが同時進行する場合、同仮説に基づいたドル円相場と購買力平価の収れんが起こるとすれば、それは、外為市場におけるハイパー円高ではなく、日本のハイパーインフレによって達成される公算が高い。