ARESは、2023年度に「ARES ESG アワード」を創設しました。本アワードは、既存の外部格付・認証制度のように各銘柄のランク付けをするものではなく、ユニークな取組みを表彰し、広く業界内外に共有することを目指しています。2024年度は第2回となる「ARES ESG AWARD 2024」を開催しました。多数のエントリーの中から計8投資法人が受賞し、2025年2月に開催した「Jリート実務委員会/第2回ESG担当者部門懇談会」のなかで、 受賞社による受賞取組みのプレゼンテーションと参加者との質疑応答を行いました。その内容を一部加筆してご紹介します。

本記事は「ARES 不動産証券化ジャーナルVol.85」に掲載された記事の転載です。
グッドアクション賞

環境部門
ジャパンリアルエステイト投資法人

「既存オフィスのZEB化」

ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント株式会社
取締役 サステナビリティ推進部長 兼 リスク管理室長
千葉 美和子 氏

ジャパンリアルエステイトアセットマネジメント株式会社
取締役 サステナビリティ推進部長 兼 リスク管理室長

千葉 美和子


JREは、CO2排出量80%削減、CO2原単位㎡当たり12kg以下、再エネの電力比率90%という非常に高い数値を「2030年度に向けたKPI( 基準年・2019年度)」に設定しています。再エネの導入で電気由来のCO2 はゼロになりますが、まずは消費エネルギー自体の削減が重要だと考え、マーケットのオフィスビルの9割超を占める既存ビルのZEB化に取り組んでいます。

CO2削減に関する2030年度へのロードマップでは、2019年度にポートフォリオ全体で約10万tであったCO2の排出量を、再エネ導入や物件入替え等による6万tの削減に加えて、リノベーションとZEB化で2万t、合計8万t減らすとしており、グループ会社の三菱地所設計と協働して進めています。また、2030年までにZEBのなかで比較的取り組みやすい「ZEB Ready」「ZEB Oriented」で5~10棟保有することを目指しています。

事例をご紹介します。「JRE東五反田一丁目ビル」は延床面積6,500㎡、用途は事務所で1階にスーパーマーケットが入る8階建てのビルで、竣工は2004年、ZEB取得時点では築16年でした。従前のBEIは0.84 で基準ビルよりもやや省エネ型でしたが、LED化で0.76、照明制御導入で0.74、これに空調容量の適正化、空調機の高効率化、換気量を見直すことでBEI 0.47を実現、53%削減となりZEB Readyを達成できました。空調容量の縮減を行ったため当初計画の見積額よりも工事費を低く抑えることができ、近年の猛暑でもテナントからのクレームはなく、メーカーの測定でも空調容量も満足なものであることを確認しています。

これまでにZEB Readyを3棟、ZEB Orientedを1棟取得しましたが、ZEB達成には、空調容量の適正化(容量の縮減)、空調機の高効率化、照明のLED化、照明照度の適正化が非常に大切になります。

大森 新規ビルと比べて既存ビルのZEB化が難しかった点、留意点について教えてください。

ポートフォリオ75棟の全てがZEB化できるわけではありません。多額の資金を投入し新しい設備を導入すれば、多くのビルで可能かもしれませんが、費用を最小限に抑える場合、空調容量の縮減やLED化によってZEB化できるビルは限られており、その選定が難しいところです。

会場 ビル選定の難しさを具体的に教えてください。

ノウハウを持つ三菱地所設計に聞いたところ、古いビルは断熱に懸念があるので難しい、超高層ビルは空調等空気を送る搬送動力にエネルギーを多く使うので難しいとのことで、なるべく新しく、かつ床面積が小さいビルの方が達成は容易とのことです。


環境部門
アクティビア・プロパティーズ投資法人

「室外機芋緑化システムの導入」

東急不動産リート・マネジメント株式会社 
サステナビリティ推進部長
河内 大輔 氏

東急不動産リート・マネジメント株式会社
サステナビリティ推進部長

河内 大輔


当社は2つの上場リートと1つの私募リート、計3つのリートを運用しており、私が所属するサステナビリティ推進部は各投資法人のESG推進と運用会社としてのESGの取組みを推進しています。「室外機芋緑化システム」はアクティビア・プロパティーズ投資法人が保有・運営する霞が関東急ビルの屋上室外機に緑化を施したもので、現時点で本投資法人での導入は1物件となっています。この緑化システムは日建設計と住友商事が共同で開発した技術で既に特許を取得済みで、スポンサーである東急不動産が先行して実施しています。2023年の夏頃から環境配慮の視点で何かできないか検討を開始し、2024年7月に本システムを導入しました。設置期間は3週間程度、室外機の周囲に架台を設置する等の工事を実施しました。本物件を選定した理由は、室外機が1カ所に集まっており架台を設置しやすかったこと、各室外機の間に苗袋の設置や人が通れるスペースが確保できる点等から決定しました。

本システムの導入で期待される効果の1点目は空調効率のアップです。室外機が排熱した空気を自ら吸気してしまうことで空調効率が低下する課題がありましたが、芋の葉が排熱の回り込みを防ぐとともに、葉っぱ自体の蒸散作用による気化熱で周囲の温度を下げるため、空調効率の改善に繋がります。2点目がサツマイモの葉の光合成でCO2 を酸素に変換します。また、本システムは自動灌水と自動堆肥が可能で人の手がかからないというメリットもあります。3点目はヒートアイランド対策です。

結果的に1つの取組みで3つの効果が得られると考えています。秋にはテナントの皆様と当社関係者で芋の収穫を行い、コミュニケーションを図る機会になりました。今後は他物件でも導入の検討を行い、省エネ対策と街の緑化に取り組んでいきたいと考えています。皆様の省エネ対策や新しい取組みの参考になれば幸いです。

大森 なぜサツマイモなのでしょうか。

サツマイモの葉が繁茂する時期が暑さのピークとなる7~9月である点が挙げられます。また、サツマイモは栽培に手間がかからず害虫に強いこと等も選定理由です。ちなみにジャガイモが最も繁茂するのは3~4月頃ですので、省エネの効果が低いと聞いています。

会場 可能であれば、空調効率がどの程度向上したかを教えてください。

昨夏は猛暑だったこともあり、ビル自体の空調改善は僅かでしたが、実証実験では最大約10%の省エネ効果がもたらされたと聞いています。


社会部門
ヒューリックリート投資法人

「従業員表彰制度によるESG活動支援」

待場 弘史氏

ヒューリックリートマネジメント株式会社 
取締役 CFO企画管理本部長兼財務企画部長

待場 弘史


当社は人員が限られるなかサステナビリティ関連の推進は専任の部署ではなく、企画、投資、運用の部署横断で行っています。当社におけるESG関連の評価制度は2つあり、1つは役職員全員の人事評価の1項目として、各自の担当業務におけるESG関連の取組みやその成果を賞与や昇給の評価へ反映(金銭面でのインセンティブ)することです。2つ目が、今回表彰の対象となった「従業員表彰制度によるESG活動支援」で、従業員が各自で実施したボランティア活動や社会貢献活動、資格取得など、ESGに関連した優れた取組みへの表彰(非金銭面でのインセンティブ)です。この制度は、これらの取組みを社内で共有するとともにサステナビリティを推進する組織風土の更なる醸成を図るという観点で2021年に導入し、これまで4回表彰を行っています。具体的には、CSR検定やエコ検定の資格取得、CASBEEウェルネスオフィス評価員試験の合格、設備関連企業開催のセミナー受講や、ラボへの訪問で情報収集を行い保有物件にどのような形で活用できるか検証するアクションに対して表彰しました。

仕組みは非常に簡単で、選考基準は大きく4つ。1つ目はESG関連業務です。2つ目は資格取得で、合格率などの難易度でポイントに高低をつけ、さらに担当業務のスキル向上に繋がるか、担当業務外でも今後の業務の幅拡大に繋がるかも判別して評価します。3つ目はボランティア・社会貢献で、個人の活動が対象です。4つ目はその他です。それぞれの取組みをポイント換算し、毎年末に高ポイントを獲得した従業員に表彰状と商品を授与します。商品は、21年はエコ商品のカタログギフト、22年はフィットネスクラブ体験チケットや枕のオーダーチケット等の健康関連商品からの選択、23年は携帯ランタンやカセットコンロ、携帯用浄水器等の防災関連商品からの選択、24年は被災地支援となる石川県産カタログギフトと、毎回テーマに拘って商品を選んでいます。本取組みも5年目に入りますが、さらなる広がりが課題と認識しています。積極的に取り組む人と意識が薄い人との違いが出ており、人の面での広がり、また資格取得が中心でボランティアや社会貢献活動が多くないため取組内容での広がりも欲しいところです。そのためにも、状況に合わせて柔軟に見直してさらに参加しやすい制度に改善していきたいと考えています。

大森 資格取得やボランティア等で印象深かった内容を教えてください。

意識の高い人は資格取得で級を上げて継続して取得するなど、その点は非常に評価しています。


ガバナンス部門
ヘルスケア&メディカル投資法人

「ESG研修体制の充実」

松本 博行氏

ヘルスケアアセットマネジメント株式会社 
コンプライアンス・オフィサー

松本 博行


本投資法人は「高齢社会の課題解決」という社会的な要請から設立されました。設立理念は「国民一人ひとりが安心して生き生きと生活できる社会の実現を目指す」であり、資本市場からの資金調達が難しい医療・介護業界に資金供給することで、高齢社会の課題解決の一助となればと考えています。ESGのとりわけ「S」に親和性があると思います。

今回はガバナンス部門での受賞ですが、「ESG研修体制の充実」はソフトなガバナンスといえるのではないでしょうか。当社は設立以来、社員全員を対象としたコンプライアンス勉強会を月2回開催しています。時事的なテーマについても各部が自発的に勉強会等を企画しており、勉強会の文化が根付いています。最近では、会社法の実務や不動産マーケットの動向、リース会計の変更、ESG等について勉強会を行いました。テーマによっては講師を外部から招聘し、継続的に行う場合もあります。


esg研修体制

これまで「E」に関連して、TCFD、建築物省エネ法の改正、RE100 の取組みといったテーマの勉強会を開催したり、竹中技術研究所の視察も行いました。竹中技術研究所では木造建築の進化や緑化への取組み、建物の安全性等について学びました。「S」では高齢社会の現状課題に関するレクチャーやNTT City Laboの見学、DEIに関する勉強会を実施しました。NTT City Laboの見学では、「介護のIT化」が人手不足といわれる介護ビジネスの現場で、いかに業務負担の軽減につながるかを認識しました。「G」ではコンプライアンス勉強会を中心に利益相反管理やハラスメント防止等の勉強会を実施しています。

毎月行われるESG委員会では各部がESGに関して行ったことや新しい情報等を共有するのですが、そこで疑問点等が出ると各部が自主的に勉強会や見学会を企画・開催しています。このような取組みは、会社全体のESGマインドを向上させるだけでなく、所管業務の高度化にも繋がることもあります。例えば、省エネ効果があるLED導入は、資産運用部門のCAPEXに関するコントロール能力を向上させ、さらに賃借人の光熱費の低下にも寄与するため物件価値の向上にも繋がります。環境保全を運用コスト上昇の視点だけでとらえるのではなく、コスト削減に繋がる場合もあるため、経済と環境が調和するWin-Winの関係になっていけばいいと委員会では話しています。

大森 外部の研究所等の訪問で、社内での取組み推進に直接つながった研修があれば教えてください。

外部の研究所への訪問は貴重な機会であり印象深い取組みですが、それが即座に業務改善に繋がったことは、正直まだありません。ただ自分たちだけでは理解しづらい内容を詳しい方に説明いただくことで、理解は深まるとともに関連領域への興味も広がります。どこかのタイミングで成果として現れると信じています。


ベストレコメンド賞

環境部門
大和ハウスリート投資法人

「自然資本に対する取組み」

大和ハウス・アセットマネジメント株式会社 
取締役サステナビリティ推進部長 加藤 康敬氏

大和ハウス・アセットマネジメント株式会社 
取締役サステナビリティ推進部長

加藤 康敬


TCFDとTNFD開示の過程についてまずお話します。2022年3月にTCFDを開示していますが、その間にTNFDの存在を知り、同年5月には検討を始めました。当時、最終提言が23年9月開示予定でしたので、できればその前のベータ版での開示をしたいと考え社内で検討を進めましたが間に合わず、最終版に基づいた内容を24年1月に開示しました。開示までの20 カ月間には30by30 や企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)への参加、TNFDアダプター(アーリーアダプター)の登録、TNFDフォーラムへの加盟などを行い、保有物件でいきもの共生事業所認証(ABINC)とハビタット評価認証制度(JHEP)を取得しています。

TCFDとTNFDの大きな違いに、 後者は自然関連の影響と依存を特定し分析するLEAP(Locate発見、Evaluate診断、Assess評価、Prepare準備)アプローチという手法があり、当社はこれに沿って確認作業を行いました。ヒートマップはUNEPが開発したツールを活用して、ポートフォリオではなく不動産運用と建設に関して示しています。自然関連の影響と依存については、保有物件のうち取得価格ベースで上位100物件を対象に複数のツールを使い20以上の項目について数カ月かけて調査の上スコアリングしました。想定シナリオは2つ、TCFDでいう1.5℃シナリオと4℃シナリオのイメージです。

マテリアリティは、事業への影響を大中小の定性評価で行いました。指標と目標は2030年度までに生物多様性に関する環境認証を5物件で取得することとしています。活用したツール等はすべて開示していますので、これをたたき台にして他
社においても取組みを進め、開示していただければと思います。

大森LEAPアプローチを行う上で苦労した点をお聞きします。

この作業に加わったコンサルタントも不動産に関するTNFDは初めてだったことと、日本語版のツールがなく英語版のベータ版を参考に作成したことです。我々の開示は100点満点で40点程度の認識です。この業界の開示で40点はあり得ないと思いますが、それでも開示したいと社内や会議体で強く訴えて開示していますので、皆さんも100点の出来になるまで開示をしないということではなく、まずは60点程度を目標にして作業を進めて開示するくらいの気持ちでよいのではないでしょうか。

会場独自で取り組まれたようですが、スポンサーとの連携はどうなっているのでしょうか。

本件についてスポンサーである大和ハウス工業との連携は特にせず開示に至っています。スポンサーは、我々のESGに関する取組みにつ
いてこれをやりなさい等の指示やプレッシャーは一切なく、逆に困っているときには手厚くサポートしていただける、素晴らしいスポンサーです。


社会部門
三井不動産ロジスティクスパーク投資法人

「物流施設における太陽光パネル設置
および電力託送スキームの実施」

本多 一光

三井不動産ロジスティクスリートマネジメント株式会社
財務本部 コーポレートチーム アソシエイト・マネジャー

本多 一光


本投資法人の保有物件であるMFLP厚木Ⅱの屋根に太陽光パネルを設置し、MFLP久喜とMFLP八潮の2物件に余剰電力を振り分けるというスキームで、2022年1月に検討を開始し23年12月に設置工事が概ね完了、24年4月から電力託送スキームを開始しています。当初の想定では実施まで半年程度でしたが、屋根の耐荷重等の条件をクリアする物件の選定作業に時間を要し、実際は2年以上かかりました。

21年秋に行われたESGセミナー(東京ガス、CSRデザイン環境投資顧問共催)で、太陽光発電パネルの設置費用とランニング費用の一部を東京ガスが負担するPPAモデルと自己託送スキームが組めるという話を知ったことが本取組みの契機となります。追加投資が難しいJリートで行えば運用形態に適ううえにポートフォリオのグリーン化もできると考え、検討を開始しました。自己託送を行うことで再エネ賦課金が免除されるコストメリットが得られることもありました。

難儀したのは送電網管理会社である東京電力パワーグリッドの管内で発電した電力の託送先を見つける必要があったこと、そしてストラクチャーの複雑さでした。法的な所有者は信託銀行ですが、久喜の物件はまた別の信託銀行で受益者は投資法人、資産運用業務は運用会社が、太陽光発電設備の設置・発電は東京ガスグループが、自己託送は投資法人がそれぞれ行うという複雑なストラクチャーは、東京電力パワーグリッドにとっても初めての取組みで、理解を得るのに多くの時間を費やしました。また取組みの最中にウクライナ情勢の悪化を背景とした電力料金の高騰があったため太陽光発電設備の需要が非常に高まり、関連部材の納期が長期化して工事が遅れました。さらに、経産省のガイドライン変更があり自己託送の要件が厳格化されたことで、関係各所に混乱が生じました。当社も緊急に対応して、最終日ぎりぎりになんとか必要手続きを完了し、再エネ賦課金も免除されています。

この取組みにより、ポートフォリオ全体のクリーンエネルギー化が進み、ZEB取得にも貢献しました。今後も様々な手法を検討してグリーン電力化を推進していきたいと考えています。

大森 テナント調整も困難なポイントに挙げていらっしゃいましたね。

テナントが稼働している状態で施設にパネルを取付けたので、日々出入りするトラックとパネル設置に必要な70tクレーン車との調整とオペレーションに苦労しました。そして屋根への設置工事は暑さのために秋~春に限られるのですが、テナントの要望により切替えに必要な停電を行ったのは3月ギリギリでした。


社会部門
野村不動産マスターファンド投資法人

「新たなサステナビリティ方針の策定」

下道 衛

野村不動産投資顧問株式会社 
執行役員 運用企画部長

下道 衛


2024年4月に当社のサステナビリティ方針を8年4 カ月ぶりに改訂しました。その根幹は「信じて、挑む ~豊かな未来につなげるために~」です。改定のきっかけは、サステナビリティを推進する役職員において、本来目指すべき目的と手段、意義がぼやけてわからなくなり始めたことに気づいたからです。本来、私たちは地球の一員として経済活動や社会活動を次の世代につなげて社会を持続させなければならない責任があるはずなのに、現実のビジネスシーンでは、外部からの要請があるから、時代のトレンドだから、ベンチマークのスコアや評価を上げるためだから、と“手段を目的とする傾向”が見え始めたため、社長以下全役職員で議論を開始し、サステナビリティ推進の意義を考え始めました。

要諦は「私たち社員」です。私たちが動き始めない限りサステナビリティ推進は循環しません。私たちが運用する不動産に価値を付加することで環境が良くなり、地域や街に人々の笑顔があふれていきます。そのような社会では経済や産業が発展していきます。そうした社会が実現すると投資家やレンダーを含め私たちのビジネスが評価され、その評価が私たちに戻り、さらにモチベーションが向上し、また次の取組みが始まる、という好循環が生まれます。このような未来がきっと訪れることを信じて、みんなで取り組んでいこう、と想いを込め循環の図を作成しました。なお、ステークホルダーの一丁目一番地に私たち社員を置いたのは、サステナビリティ推進の取組みのきっかけは、私たち社員からスタートするからです。

野村不動産マスターファンド投資法人のマテリアリティは、社会課題にフォーカスして国土交通省が公表した「社会的インパクト不動産」の実践ガイダンスに掲載されている図を参考に定めました。人間の【安全・尊厳】がベースにあり、そのうえで【心身の健康】、【豊かな経済】が実現し、【魅力ある地域】として発展していく、この4 つの階層で構成されています。各段階の具体的な事例として、外国利用者にも分かりやすいようゴミ出し等の掲示物の英語表記(安全・尊厳)や献血イベントの開催(心身の健康)、テナントと協働した「食」を通じた地域創生(魅力ある地域)などに取組んでいます。

改定されたサステナビリティ方針のもと、今後も会社とファンドが一体となりサステナビリティを推進していきたいと考えています。

大森 策定プロセスに全役職員が関わるようになった経緯を教えてください。

当社の役職員約170人が一つの会議室で議論するのは困難なので、事務局を主体として経営陣との議論を重ね、その様子を全て録画して全役職員に配信しました。その動画を視聴した社員からの感想をまた経営陣にフィードバックして、次のディスカッションに入れ込むことを何往復かして、経営陣と社員の考えを少しずつすり合わせていきました。特に時間を費やしたのは、費用を要するサステナビリティ推進は受託者責任に含まれるのかどうかです。そもそもサステナビリティ推進は地球の一員として行動することであり、ビジネス以前の与件なのか、それとも受託者責任に含まれるビジネスなのか、この整理と理解については時間を要しました。


ガバナンス部門
オリックス不動産投資法人

「ステークホルダーミーティングの開催と情報開示」

大江 麻由美

オリックス・アセットマネジメント株式会社 
リスク・コンプライアンス部 シニアマネージャー

大江 麻由美


ステークホルダーミーティングとは、マテリアリティの特定やESG方針等を定めるにあたり専門家を含めたステークホルダーのご意見を
伺い施策に反映することを目的に開催するものです。本年度は、「OJRの社会的インパクト」と題し、価値創造プロセスおよび移行計画について、三菱UFJフィナンシャル・グループの銭谷様、CSRデザイン環境投資顧問の堀江様、野村総合研究所の三井様からご意見を伺い、当方は経営層が参加しました。価値創造プロセスの作成は本年度が初めてであったため、フレームワークに沿って忠実に行い、財務、人的資本などをインプットして事業活動を行ってアウトプットを生み出す、その先に存在意義的な位置づけとしてアウトカム、インパクトを設定しました。

事業活動のモデルから何を生み出すのか、どのように価値を創造したのか、独自の特徴を表現する必要があるというアドバイスを受けて、OJRの特徴について説明を追記しています。リスクについては認識してコントロールしていくことが重要だとアドバイスがあり、同様に追記しています。価値創造の取組み方については、姿勢を伝えるべきというアドバイスのもと2024年2月期の実績として資産入替えによるポートフォリオの良化、ホテルの客室改装等戦略的な投資、賃料の増額実績等を追記しました。今後も価値創造プロセスを利用して、ステークホルダーの皆様にわかりやすい開示を心がけていきます。

移行計画については、前年度にネットゼロに向けたロードマップを作成していますが、本年度は要素範囲の広いCDPのガイドラインに準拠したものを策定しました。財務影響、エンゲージメントの部分を追加し、皆様から計画に対する評価と実行に向けたアドバイスをいただきました。

当日は、サステナビリティに関する動向につき、チェックしきれない国内外の動向を踏まえた示唆を頂き、充実したディスカッションとなりました。今後もステークホルダーの皆様とのエンゲージメントを大切にして、より多様な意見を反映させるためにはどのような方法が良いか検討していきたいと考えています。

大森今後、インパクトの定量化に取り組む予定はありますか。

まずは、我々がどこを目指すのかが大事だと考え、定量的計測より社員への浸透を基準に置きたいと考えています。


総 括

大森 第2回を迎えた本アワードですが、環境分野では、気候変動への対応としてのTCFDに加え、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への関心の高さが伺えました。本年度併せて実施した「JリートのESG取組調査2024」(以下、ESG取組調査)においても、昨年度と比較して、生物多様性保全の取組みを進めるJリートが大幅に増加していることが明らかになりました。

社会分野では、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化の影響もあり、人的資本経営への関心の高さが伺えました。ESG取組調査においても、多様な働き方のさらなる追求や人権保護、人材教育・研修の充実など、人的資本投資の推進・強化しているJリートが多いことがわかりました。

そしてガバナンス分野においては、ESGの個別テーマに対する社会的要請に応じるだけでなく、それらの対応を、従業員はじめ、多様なステークホルダーを巻き込みながら推進していく動きも多く、ESGに係る推進体制の充実や社内浸透の強化が図られている点も印象的でした。

ARES ESGアワードは、これらの優れた取組みを共有し、他のJリートの皆様にも参考にしていただける貴重な場と考えています。今後も本アワードが、業界全体のESGに関する取組みの深化に貢献することを願っています。