「ESG(環境・社会・企業統治)」の要素を運用に取り入れる動きが日本でも活発化してきた。ESG投資の関心が高まっている背景や今後の展望などを関係者に聞いた。(工藤晋也)
国連のPRI呼びかけがESG投資拡大の起点に
近年、急速に存在感を増しているESGだが、その歴史は意外と古い。いまからおよそ100年前、1920年代に米国のキリスト教会でタバコやアルコールなどに関わる企業を投資対象から外すネガティブ・スクリーニングが始まりとされる。
1960年代から1980年代にかけては、ベトナム戦争やアパルトヘイトなどに関係する企業に対して投資回避や事業の見直しを求めていく今日のSRI(社会的責任投資)の形ができあがる。その後、SRIの視点で投資先企業を選定するSRIファンドが登場したが、パフォーマンスの面で魅力的とはいえず、あまり浸透しなかった。
ただし、SRIによってESGの発展の土壌は整う。2006年に当時の国連事務総長のコフィ・アナン氏が、ESGの要素を投資の意思決定プロセスに組み込むなどの投資原則からなる「PRI(責任投資原則)」を提唱し、ESGの考えは瞬く間に広まった。
PRIの署名機関も着実に伸びている(図表1)。2017年3月31日時点で344のアセットオーナー、1148のインベストメント・マネージャー、226のサービス・プロパイダーの計1718機関が署名。運用資産総額は約60兆ドル(約6600兆円)にのぼる。
国別では英国や米国の署名機関は200を超えている。一方の日本は14のアセットオーナー、30のインベストメント・マネージャー、11のサービス・プロパイダーの計55機関の署名にとどまっているものの、「日本でもESGへの注目度は徐々に高まっている」と高崎経済大学教授の水口剛氏は話す。
日本におけるESG拡大のきっかけになったのが、2014年8月に発表された「伊藤レポート」だ。「投資家のショートターミズム(短期志向)化を改めるため、ESGなどの非財務情報を含めた中長期の情報開示の必要性を訴えたことが大きい」と三井住友アセットマネジメント スチュワードシップ推進室長の齊藤太氏は話す。
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