ESG(環境・社会・企業統治)は、業種や時間軸の広がりだけでなく、多様な業務分野にかかわり非常に多元である。しかも、それが日々拡大し、深くなっている。膨張するESGから生じるリスクに対応できる体制と戦略はあるのか、と問うてみる必要がある。リスク管理の手法といえば「デリバティブ」がある。ESGに適用する「ESGデリバティブ」を原因別対応策別などの視点から考察してみよう。今回は【第7回】「様々なESGデリバティブ活用法」である。

ESGにリンクされた転換社債~新しい資金調達方法

世界で初めてこの債券を発行したのはシュナイダーエレクトリック社である。エネルギー管理および自動化におけるDXの主導的企業である同社は、自社のサステナビリティと同時に、顧客企業やその取引先(Scope 3企業)に脱炭素化のソリューションを提供している。

2020年11月発行の当該転社の資金使途は一般目的で、満期は2026年6月、ゼロクーポンで満期前償還の可能性があり、変換は40日以降満期7営業日前まで可能である。ESGエクイティ・ファイナンスと呼べる。

変換条件には、顧客のCO2排出2.8億トン分の削減・節減への貢献などのほか、ジェンダーの多様性(採用の50%、最前線のマネージャーの40%、同じくリーダーシップチームの30%にする)がある。恵まれない環境下にある100万人の人々にエネルギー管理に関するトレーニングを実施するといった条件もある。

その他条件は転社一般と共通するが、変換条件はハードルが高いように見える。実際、新型コロナとロシアのウクライナ侵攻に伴う経済環境の激変で、目標未達予想が優勢になり転換が進んでいないことが予想される。

ESGエクイティ・ファイナンスの課題と要

ESGエクイティ・ファイナンスが成功するためには、それゆえ、知見を有効に活かしてソリューションを提供する取り組みを自身がしていると理解されることが必要になる。

要約すると、①株価がESGに連動するように経営陣が努力しているという信頼性が高くなければならない、②資金が他に使われる恐れがない、③なぜ転社(高業績で株価が堅調)か明瞭である、④ワラント債については、投資家の判断で新株が増えるので、企業の長期的財務戦略は困難に陥らないか明瞭である──が重要になる。

技巧的にはどの評価会社がESG判定するのかもなおざりにできない。

ESGオプションの活用法をコールオプションで説明

ESG投資を行っている機関投資家は、対象のESG事業の失敗だけでなく、ESG指数の下落によってリターンが低下する可能性がある。このリスクはコールオプション(買う権利)の購入で防げる。

配慮しておくべき事柄には次がある。このコールオプションを売る主体は、予想外のESG指数の上昇で大きな損失を被る。ESGブームの時には売り手が少なく、プレミアムは高騰する。

ESGデリバティブのプライシング

非ESG分野デリバティブにおいてプライシングの技法は金融分野で進み、癖、課題は何かなどが明らかになっている。また、本連載の前回既述のように長期のモデルも提案されている。

ESGデリバティブのプライシングについては、ESG資産・事業についてのリターンの確率過程を推定する仕事が残されている。

新しいESGデリバティブの紹介

下記図表を参照。2023年10月から始まった東証カーボン・クレジット取引には関連するデリバティブ取引導入が目論まれている。

【図表】最新ESG資金調達等の一部紹介
名称 概要 狙い・効果
CO2相殺私募債 銀行が、企業に促して発行した私募債を引き受け、その発行金額の0.1%相当額のJ-クレジットや非化石証書などのクレジットを購入 (中小)企業の脱炭素化を支援
新株予約権 再エネ関連スタートアップのパワーエックスは2023年1月、四国電力や損保ジャパンなどを引受先として発行し、27億円を調達 資金は蓄電池工場の設備投資、電気自動車(EV)の充電や蓄電池のソフトウエア開発などに充てる
温暖化ガス削減量取引保険 森林が台風や災害などで消失したときの負担を補償する。
企業や自治体などのクレジットの販売業者は従来自己資金でクレジットを追加購入する必要があった
民間カーボン・クレジット取引を促す
炭素差額決済(Carbon Contracts for Difference: CCfDs) 取引 政府が排出権を買い上げ、CfD取引する EU排出量取引制度において脱炭素推進を狙うグリーン経済政策のアイデア

出所:『CFD取引とその活用戦略』(辰巳憲一)などを参照

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数