ESG(環境・社会・企業統治)は、業種や時間軸の広がりだけでなく、多様な業務分野にかかわり非常に多元である。しかも、それが日々拡大し、深くなっている。膨張するESGから生じるリスクに対応できる体制と戦略はあるのか、と問うてみる必要がある。リスク管理の手法といえば「デリバティブ」がある。ESGに適用する「ESGデリバティブ」を原因別対応策別などの視点から考察してみよう。今回は【第3回】「ESG事業の破綻要因分析」である。

ESG事業の失敗や破綻の主たる要因

再エネやリサイクル業者の最近の倒産要因を調べてみれば、ESG要因ではなく、伝統的な要因によって倒産している。ESG事業でも非ESG事業と大きく変わるところはないのである。

影響が広範囲におよび、環境アセスメントが必須という2つの点とCO2の削減に失敗したら温暖化を抑制できなくなり、企業だけでなく人類の存続にかかわる重大問題になる点は違う。

経済的理由による事業失敗・倒産の分類

なぜ倒産に至ったのかは、結局、経営戦略失敗と環境変化の2つに大分されるが、それらの個別の原因が重要になる。順不同で挙げた次の内の1つあるいは複数が係わってESG事業の破綻にいたると予想できる。

経営戦略失敗については、①方向転換あるいは多角化に失敗し破綻。②粗い事業化計画による倒産。特に新電力に観測され、ESGなどの新分野で見られるように、市場調査が十分でなく、採算性や製品供給量について十分な見込みを獲ずに事業化するケースに見られる。

さらに、③急激な拡大路線と過大な負債による倒産。例えば人件費が高騰する時期に起業時があたってしまうと、費用が高騰し立ちいかなくなってしまう。④安値ダンピング受注による倒産もあるだろう。

なお、経営戦略失敗の要因には、最近洋上風力で起こったような経営不振を不正によって乗り越えようとして発覚するケースがあり、後半で解説する。

環境変化については、⑤は②の原因と重複するが、現に起こっている物価高(インフレ)倒産、⑥組織内の構成員が着服や横領をするという予想外の出来事で倒産、⑦新型コロナウイルスやウクライナ侵攻のような降ってわいた災難による倒産、がある。

不正発覚による倒産

下の図表は、意図的な法令違反や社会規範・倫理に反する行為などによって倒産する件数を示したものである。帝国データバンクは、2005年4月から同一企業に複数のコンプライアンス違反がある場合は主な違反行為だけを取り上げるという方法で調査集計し分類している。

違反類型別に見ると、近年構成比では資金使途不正、粉飾(架空の売り上げの計上や融通手形など)、業法違反(過積載や産地偽装など)、が最も多かった。次いで雇用、不正受給、脱税(所得・資産の隠蔽など)が続く。その他に分類される項目の多さ(図表の脚注を参照)から不正には様々あることが分かる。

【図表】不正発覚による倒産件数の推移
不正発覚による倒産件数の推移
※その他は、談合、偽装、過剰営業、贈収賄、その他である。法的整理倒産だけは負債1000万円以上に限定
出所:帝国データバンク(『コンプライアンス違反倒産2022年度』2023年4月)より筆者作成

その他の倒産要因

その他の倒産要因は、いくつか予想できる。サイバー攻撃による倒産は本連載の次回に紹介する。またESGにも近い将来、後継者難倒産が起こりえる。

ESG事業破綻への一対策

ESG失敗の時どういう事後対策を採るべきか、誰がどう責任を取るべきか、多くの場合考えられていないのではないか。デリバティブで対策を採っていれば資金的には安心できると考えている。

辰巳憲一

辰巳憲一
学習院大学名誉教授
大阪大学経済学部、米国ペンシルベニア大学大学院卒業。学習院大学教授、London School of Economics客員研究員、民間会社監査役などを経て現在、学習院大学名誉教授など。投資戦略、ニューテクノロジーと金融・証券市場を中心とした著書・論文多数