誰でもが自由に参加でき、簡単に回答できる「消費者マインドアンケート調査」

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

内閣府は「消費動向調査」とは別に、2016年9月から「消費者マインドアンケート調査」(試行)という新しい調査を実施している。「消費動向調査」など通常の調査では、調査対象に選ばれないと回答する権利はないが、「消費者マインドアンケート調査」は国民の誰でもが自由に参加でき、簡単に回答できる画期的な調査である。

質問数は「暮らし向き」と「物価見通し」の2問だけと少なく、スマートフォンやパソコンから1分間もかからずに短時間で簡単に回答できる。毎月20日を締め切りとしており、22~24日頃には当月分が発表される。

「暮らし向き」の質問は、「あなたの世帯の暮らし向きは今後半年間にどうなると思いますか?」というもので、「良くなる」「やや良くなる」「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」の5つの選択肢から回答。「物価見通し」の質問は、「あなたの世帯で日ごろよく購入する品物の価格は1年後どうなると思いますか?」というもので、「上昇する」「やや上昇する」「変わらない」「やや低下する」「低下する」の5つの選択肢から回答する。

景気ウォッチャー調査と同じ5段階での評価なので、同調査と同様に、それぞれ「1」「0.75」「0.5」「0.25」「0」の点数を割り振り、加重平均して「暮らし向き判断DI(ディフュージョン・インデックス))」と「物価上昇判断DI」を算出することができる。DIは50が判断の分岐点となる。

【図表】暮らし向き判断DI
暮らし向き判断DI
出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
※「良くなる」から「悪くなる」までの5段階の回答を景気ウォッチャー調査と同様にDI作成した

なお、残念なことに「消費者マインドアンケート調査」はほとんどマスコミで報じられていない。そのせいもあってか、この調査の回答者は直近2023年10月で僅か90人と少ない。内閣府から調査依頼が来るわけではないので自発的に対応しなければならないが、日本人の積極的でない性格のせいだろうか。内閣府の「景気動向調査」「機械受注統計調査」「消費動向調査」などの各景気統計のホームページには、「消費者マインドアンケート」への協力をお願いするバナー広告が掲載されているにも関わらず回答者が極めて少ない。

景気に関心がある人でも、ホームページの統計データまでアクセスしている人が少ないか、アクセスしても自ら進んで調査には協力しないという人が多いかどちらかで、非常に残念な状況にある。

現状の「消費者マインドアンケート調査」は統計学的見地からはサンプル数の少なさなどから統計・調査として大いに問題があるかもしれないが、公共財としての統計・調査の意義を再認識してもらうためには必要な調査だと思う。全国民参加型の内閣府「消費者マインドアンケート調査」(試行)がきっかけとなり、多くの人々が経済統計・調査に協力する風潮が生じ、より正確な景気・物価の認識につながることを期待したい。

ロシアのウクライナ侵攻下で85以上の高水準だった物価見通しDIが、10月82.8と1年9カ月ぶりの新たなレンジに

物価高が続いているが、人々の先行きの物価見通しに頭打ち感も出てきている。内閣府の2023年10月「消費動向調査」の、消費者が予想する1年後の物価見通しで「上昇する」は92.5%と高水準だが、9月の93.7%から1.2ポイント鈍化した。

【図表】物価上昇判断DI
物価上昇判断DI
出所:内閣府「消費者マインドアンケート調査」
※「上昇する」から「低下する」までの5段階の回答を景気ウォッチャー調査と同様にDI作成

帝国データバンクの食品主要195社・価格改定動向調査によると11月の食品値上げは131品目で、10月の4757品目を大きく下回った。令和5年10月期の輸入小麦の政府売渡価格が、直近6か月間の平均買付価格を基に算定され、5銘柄加重平均(税込価格)で6万8240円/トン、マイナス11.1%の引下げとなったことなども影響してきていよう。2024年2月まで各月の食品値上げ予定品目数は12月628、1月208、2月285といずれも3ケタにとどまり、2023年1月~10月の各月を下回る。約2年にわたる値上げラッシュが沈静化する傾向が強まっている。

10月の「消費者マインドアンケート調査」でも先行きに頭打ち感が出てきた。「物価上昇判断DI」を計算すると、10月は82.8と9月の89.5から6.7ポイント低下し、2022年1月の79.5以来、1年9カ月ぶりの低い水準になった。

「物価上昇判断DI」は調査開始の2016年9月~2022年1月まで全て60台か70台だった。この期間の平均は71.5で、全員が物価は「やや上昇する」と回答した時のDIである75.0を下回っていた。長い間デフレ状況が続いてきた影響が感じられる。

2022年2月24日にロシアがウクライナ侵攻する直前の調査となった22年2月で84.7と初めて80台になり、実際に侵攻が始まり原油や穀物価格が上昇した後の調査である2022年3月の85.9以降23年9月まで85以上(85.9~90.7)の高水準で推移していた。

消費者の物価動向に対する関心が高まるなか、足元では「物価上昇判断DI」と「暮らし向き判断DI」の連動が顕著である。政府のエネルギー価格抑制策の延長によるガソリン価格の鈍化もあった2023年10月は、物価上昇判断DI」が低下するのにともない「暮らし向き判断DI」が改善に転じた。10月の「暮らし向き判断DI」は前月差4.7ポイント上昇の32.0となり、4カ月ぶりに改善している。