米銀の格下げ懸念拡大は、「格下げの落とし穴」によるものか
いったん付与された格付けは変更されない?
長年格付けを見て来た。格付けは大変便利なツールだと心より思っている。“大体同じくらいのリスク”という甚だ難しい基準の比較を、格付けはたった一つのシンボルを使って表してしまうスグレモノなのである。
ソブリンも、金融機関も、事業会社も、たとえば「シングルA」で同じであれば、“その発行体の債務は同じ程度の確からしさで、3~5年後の債務を返済する能力がある”とみなせる。信用力が同じであれば、スプレッドやクーポンや年限など違う要素で判断が可能になり、投資の選択の際の物差しになり得るのである。
これほど便利だからこそ、世界の投資家は不満を言いながらも格付けを現在も使っているのである。しかし、格付けには落とし穴がある。最大の落とし穴の一つは、「いったん付与された格付けはなかなか変更されない」と妄信してしまうところではないか。
米国債の格下げや米銀の格下げ懸念といったニュースは、それらを改めてクローズアップさせたと言えるだろう。今回はそうした点を見ていくことにする。
格付けとは何か
格付けとは、格付機関により付与される、当該債券の償還の確からしさに対する意見である。
債券の発行体(ソブリン、金融機関、事業会社)の債務支払能力を評価し、信用力を判断、3~5年後の債務返済能力を示す。高い順からAAA、AA、A、BBB、BB、B、CCC、CC、Cと並ぶ。AAAと、CC、Cの3つはこれ以上のブレークダウンはないが、AA以下CCCまでにはそれぞれに「+」と「-」が付与される仕組みで、大体21程度のランク付けがなされる。この信用力に応じてそれぞれの債券の調達コストが決まってくることになる。
今般の米国債格下げの顛末
2023年8月1日、大手格付け会社のフィッチが、米国の外貨建て長期IDR(発行体デフォルト格付)をAAAからAA+に格下げしたことを発表した。格付ウオッチ「ネガティブ」は解除され、アウトルックを「安定的」に変更することも合わせて発表。
この記事は会員限定です。
会員登録後、ログインすると続きをご覧いただけます。新規会員登録は画面下の登録フォームに必要事項をご記入のうえ、登録してください。