プライベートアセットのトリセツ 第4回 内部体制のハードルを越える3つのモデルを検討~プライベートアセット投資の始め方
伝統的資産にはないリターン特性や分散投資への貢献などの利点から、プライベートアセットへの注目度は高まる一途だ。ただし、同アセットクラスはその性格上、投資に特殊な知識を要したり、特別な注意が必要だったりする。連載「プライベートアセットのトリセツ」では、そんなプライベートアセットを使いこなすコツを、マーサージャパン 資産運用コンサルティング シニアコンサルタントの細谷弥穂氏の話を基に紹介していく。第4回はプライベートアセット投資の始め方について解説する。
グランドデザインありきで投資を検討

資産運用コンサルティング
シニアコンサルタント
細谷 弥穂氏
今回の第4回では、これからプライベートアセット投資を始める上で、どのようなポイントがあるかを見ていこう。
まず、プライベートアセットに投資するとなると、どのファンドを選ぶかなど、実際に投資を始める段階から考えはじめる投資家も少なくないだろう。もちろん、ファンド選定やその後の管理などは、同アセットへの投資において重要な業務だが、その前にもやるべきことがある。
図表1にある通り、プライベートアセットへの投資は通常、①投資の検討・内部承認の取得、②資産配分の決定、③中期的なポートフォリオ構築・計画の策定、④マネジャー・ストラクチャーの検討、⑤ファンドの発掘・選定、⑥資金管理、⑦モニタリング・リスク管理──といった手順を踏んで進行する。

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マーサージャパン 資産運用コンサルティング シニアコンサルタントの細谷弥穂氏は、「プライベートアセットに投資するか否かを検討するにあたり、自らの投資戦略の全体像となるグランドデザインを描くことが肝要」と①~④の重要性を指摘する。
各ステップを順に見ていこう。まず、①プライベートアセットへの投資の検討・内部承認の取得については、冒頭や本連載の第2回で述べたように、プライベートアセットになぜ投資するのかという目的を明確にし、「Jカーブ効果」や「コミットメントペーシング」などの留意点も理解した上で、投資するか否かを判断する。
次に、プライベートアセットへの資産配分を決める(②)。ここでは、非流動性リスクをどの程度とれるのかを検証することが重要だ。一般的に、プライベートアセットは一度投資したら10年程度は解約できない。そのため、保有している長期の負債がどれくらいあるかや、支出計画に対して十分な手元資金が用意できそうかなどを鑑みて、許容できる範囲内で流動性リスクをとることが前提になる。
「プライベートアセットへの投資によって期待される分散効果や超過収益の獲得といったメリットを享受し、ポートフォリオ全体へのインパクトを残したいならば、一定以上の投資枠を確保する必要があるだろう」と細谷氏は強調する。
加えて、プライベートアセットの中でどの資産クラスに何%を配分するかも、投資の目的とリンクさせて考えたい。最も投資効率が高いポートフォリオになるように、資産クラスごとに異なる期待リターン・リスクについて係数を用いたシミュレーションを行い定量的な検証を行うほか、各資産クラスの特性を踏まえた定性的な観点も加味し判断することが望ましい。
その後、第3回で述べたように、毎年どれくらいの規模のコミットメントを行うべきか、計画を策定する「コミットメントペーシング」を行う(③)。
ここまで見てきたように、立ち上げ段階の①~③は、自組織の中で方針を固める必要がある。適宜、資産運用コンサルタントに相談するのもよいだろう。
リソース不足には「FoF/SMAモデル」で対応
ここまで決まったら、あとはどういう形で運用業務を委託していくかを検討する(④)。なぜなら、ファンドの発掘・選定(⑤)から投資後の管理(⑥・⑦)は、専門性が求められるのはさることながら、業務負荷が非常に大きいからだ。
例えば、ファンドの発掘・選定においては、個別にマネジャーから情報を取得してファンドをリストアップし、ファンドサイズや募集開始時期、終了時期などを確認する「パイプライン管理」が欠かせない。さらに、投資の検討を進めるファンドに対しては、定量面、定性面およびオペレーション面といった様々な観点からデューデリジェンスを行わなければならない。投資後も、キャピタルコールや分配金への対応を含む資金管理や運用状況の確認を含むモニタリング・リスク管理などの作業が定期的に発生する。
これらの業務を遂行するには十分なリソースに加え、プライベートアセットに関して高い専門性を持った人材が不可欠だ。さらに、本当にそのファンドで良いかなどを判断するしっかりとしたガバナンス体制も必須となる。
「こうした内部体制における問題が、プライベートアセット投資のハードルになっている」と細谷氏は強調する。これは国内の金融機関のみならず、グローバルでプライベートアセットに一定規模以上の投資を行う投資家も同様だという。
そこで、この問題を克服すると期待されるのが、図表2に示したような投資モデルだ。どれを採用するかは投資家の習熟度やリソースによって異なってくる。

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1つが、「FoF(ファンド・オブ・ファンズ)/SMA(セパレートリー・マネージド・アカウント)モデル」だ。投資家はFoFやSMAを選定し、投資業務をアウトソースできる。
一方、その対に位置するのが、全ての業務を投資家内部のリソースで行う「インハウスモデル」である。プライベートアセット投資における一連の業務におけるファンドの発掘・選定(⑤)以降を自分たちで行う場合がこれに該当し、十分なリソース、専門性およびガバナンス体制が求められる反面、アウトソース費用を抑えられる。
そして、両者の中間に位置するのが「アドバイザリーモデル」となる。
通常、プライベートアセット投資を始める際は、FoF/SMAモデルからスタートし、投資家の内部体制が向上するにしたがって、アドバイザリーモデル、インハウスモデルへと段階的に移行していく。どういったチームを作りたいのか、作れるのかといったリソースに大きく依存するため、足元、そして将来の計画に沿って、適切な委託方法を検討したい。
なお、年金基金がインハウスモデルをとる場合、投資対象が日本の信託銀行や投資顧問会社で取り扱いのあるファンド限られる点には留意が必要だ(図表3)。

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「プライベートアセット投資を行うにあたり、内部体制がまだ十分に整っていない場合は、FoF/SMAモデルを検討してみるのが良いだろう。同モデルならば、より幅広いユニバースの中から投資先を選ぶことができる上、どういったファンドがトップティア(最上級)なのかといった知識を蓄積することが可能だ」(細谷氏)。
さらに、「日本の企業年金では、1~数人で全ての投資業務を担当しているケースが見受けられるが、ある程度分散されたポートフォリオを自分たちで作っていこうとすると、プライベートアセットに特化したチームを持つのが理想的」と細谷氏は見解を述べる。
どこにアウトソースするかについては、運用会社の体制や安定性のほか、投資分野におけるトラックレコードが十分か、レポーティング要件が自社に適しているか──などを総合的に勘案して、数社の中から比較検討するのがよいだろう。
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<第1回>伝統資産との低い相関、時価評価のブレの少なさに魅力
<第2回>優良マネジャーの選定とビンテージ分散がカギ
<第3回>エクスポージャーを維持するには、中長期でのコミットメントペーシングが不可欠