幅の拡がるプライベート資産

大浦 裕一郎
ラッセル・インベストメント
コンサルティング部
コンサルタント
大浦 裕一郎

オルタナティブ投資は、年金資産運用に必要不可欠な資産クラスとして定着している。近年、特に導入が盛んなのがプライベート資産だ。クローズドエンド型(ファンド終了まで解約が不可)の戦略が主で、流動性に制約を受けるが、その分の流動性プレミアムを狙いとする。伝統資産に対する分散効果も大きな投資目的だ。

企業年金では不動産(特に国内)やPE(プライベートエクイティ。未公開株)が古くから投資対象となってきたが、インフラストラクチャーやプライベートデットを取り入れる企業年金も増えてきた。

プライベートデットは、中小企業や不動産、インフラに対し貸付を行う債券性投資戦略だ。資産クラスとしての歴史が比較的浅いプライベートデットが浸透しているのには債券的性格から、運用開始後、早い段階でインカムを獲得できることがある。長引く低金利下、インカム収益を獲得したい企業年金のニーズに合致した。各資産クラスともコアからバリューアッド(PEならVC<ベンチャーキャピタル>)までリスク水準の異なる戦略区分が存在するが、企業年金においてニーズが強いのは、コア、コアプラスの戦略だ。企業年金の目標リターン(≒予定利率)がそこまで高くなく、安定的リターン確保が選好されていることが背景にある。

収益確保と分散効果でニーズは強い

傾向として最近は、不動産以外の各プライベート資産においてもオープンエンド型戦略(途中解約原則可)の設定が進んでいるように思われる。またインフラやプライベートデットでもFoF(ファンドオブファンズ)が組成されるケースもみられ、投資家の流動性確保や、より安定したパフォーマンスに対するニーズを汲む動きが生まれている。

足元の市場環境を踏まえて年金ポートフォリオをみると、これまでパフォーマンスを牽引してきた株式に対して高バリュエーションの懸念が続いている。他方で債券は低金利下、パフォーマンスを狙いづらい。こういった中、収益分散先としてオルタナティブ投資ないしプライベート資産の投資意義は強まると考える。

ポートフォリオ設計には工夫が求められる

プライベート資産における課題は、今も昔もポートフォリオ構築プロセスだ。特にプライベート資産枠の運営初期段階では、この課題に直面する。ビンテージ分散を図りつつ、基本資産配分で定められた比率まで投資比率を高めるのには時間がかかる。プライベート資産は資産クラスによって、キャッシュフロー、提供される戦略形態などが大きく異なり、一概には言えない。だが、より早くキャッシュフローを求めたいのなら、すでにポートフォリオ構築が進んでいるオープンエンド型の活用(オープンエンド型であってもファンドに投資するまでの待機期間が設定されることが多い)、プライベートデットやセカンダリー戦略の採用が対応になる。

またこの分野は伝統資産にあるようなベンチマークがない。基本資産配分検討の際、プライベート資産クラスの実績評価方法に悩む企業年金は多い。ポートフォリオ構築の裁量が大きい資産クラスだからこそ、資産クラス全体の期待リターンや投資進捗予定は企業年金側で予めしっかりと把握し、モニタリングする必要がある。

【図表】各資産クラスの主な役割(長期的視点、イメージ図)

図表
上記はイメージ図であり、現実を忠実に反映したものとは限りません
出所:ラッセル・インベストメント