• 2024年年央には1ドル100円までドル安円高進行か
  • 短命に終わった欧米の金融不安
  • 顕著なアジア向け輸出数量の落ち込み
  • アジア発の世界金融不安による115円までの円高

2024年央には1ドル100円までドル安円高進行か

梅本徹
J-MONEY論説委員
梅本 徹

ドル円相場と日本の対中国輸出数量(前年比)の間には、約1年半のラグをもって緩やかな相関関係がみられる(図表1)。

中国の内需動向が市場参加者のリスク選好を通じて、ドル円相場に影響を与えていると考えることができる。これによれば、ドル円相場は2023年央に115円、2024年央には100円まで下落するとみられる。

【図表1】日本の対中輸出数量はドル円相場の先行指標か
日本の対中輸出数量はドル円相場の先行指標か
出所:財務省、Fed

短命に終わった欧米の金融不安

2023年3月に勃発した欧米の金融不安によって、中国復調などを背景にそれまで137円台まで買い進まれたドル円相場は、一転、質への逃避から129円台まで調整された。しかし、現在の日米欧先進国の金融システムには、これまでに繰り返された数々の危機の経験を踏まえて、システミックリスクを事前に回避する仕組みが既に構築されていた。

このため、3月下旬には、金融市場は安定を取り戻し、4月中旬のドル円相場は、133円台で推移している。一方、2月中旬以降、YCC(長短金利操作)の上限である0.5%に張り付いていた10年物日本国債利回りは、金融不安の勃発によって3月中旬に0.17%まで急落した。

日銀によるさらなる緩和調整を契機とした「日本売り」にベットしていた海外ファンドは、再度ロスカットを強いられるかたちとなった。先月の本稿で述べたように、「日本滅亡論」に基づくトレードを行うのは、やはり時期尚早なのであろう。

顕著なアジア向け輸出数量の落ち込み

付加価値の高い資本財を中心とした日本の輸出数量は、価格弾性値が低く、所得弾性値が高いため、輸出相手国の内需の強さを図るバロメーターとして有用と考えられる。

世界金融不安によって落ち込んだ2009年を100とすると、全世界向け輸出数量は2023年(1~2月を年率換算)に101と、2020年パンデミックによって急減した水準まで再び落ち込んできており、現在の世界需要は極めて脆弱と言えよう。

ただ、地域別にみると大きな格差がみられる。米国、EU(欧州連合)向けは、2023年(同)に119まで反発しており、欧米の需要は予想外に堅調である。また、これが今般の金融不安を短命に終わらせた一因とも考えられる。

この観点からは、短期的なドル円相場のアップサイドリスクが見て取れる。一方、アジア向けは、2023年(同)に96まで減少している。その内訳は、アジアNIESが84、ASEANが113、中国が78と、アジアNIESと中国の需要の弱さが際立っている(図表2)。

【図表2】急減する日本のアジア向け輸出数量(2009年=100)
急減する日本のアジア向け輸出数量(2009年=100)
出所:財務省

アジア発の世界金融不安による115円までの円高

日本の輸出数量は安全保障上の制約等によっても影響を受けるため、一概には論じられないが、以上の分析をみると、一般的な中国復調に起因する景気楽観論とは裏腹にこれまで世界景気をけん引してきたアジアNIESや中国経済に不気味な停滞が生じている公算が高い。

インフレや高金利、ドル高、過剰債務といった要因によって、ひとたびこれらの地域において金融不安が勃発すれば、日米欧に比べて脆弱な金融システムに現在の景気不調が加わり、アジア発のシステミックリスクは全世界に波及する可能性ある。

この場合、ドル円相場は質への逃避がさらなる円キャリトレードの手じまいを誘発し、今般のドル高円安の出発点である115円まで急落すると考えられる。

日銀によるさらなる緩和修正も実施されれば円高を支援するであろう。昨年とは異なり、今年のドル円相場はこれまで極めて神経質な値動きをみせてきた。ただ、今年一番のビッグストーリーは、アジア発の金融不安がもたらす急激な円高と筆者は引き続き考えている。