日本保険・年金リスク学会主催 JARIPフォーラム2025 DeepSeekが変えたAI開発競争の構図。金融業界では「金融特化型AI」開発が焦点に株式会社松尾研究所 金剛洙氏
2025年3月8日、日本保険・年金リスク学会(JARIP)は「日本保険・年金リスク学会主催 JARIPフォーラム2025」をオンラインとリアルのハイブリッド形式で開催した。2025年度のテーマは『AI、生成AIの急速な進展と保険・金融ビジネスへのインパクト、AIガバナンス』で、保険・銀行業界でAI(人工知能)の実装・開発の最先端を担う専門家が講演を行った。本記事では、「生成AIの進展と金融領域の活用可能性」と題した基調講演に登壇した株式会社松尾研究所の取締役 金剛洙(きむ・かんす)氏の講演をダイジェストでお伝えする。

中国が生んだ注目AIモデルと米国の方針転換
現在、目覚ましく発展する生成AIの技術的基盤となった「トランスフォーマー」と呼ばれる技術に関する論文は、2010年代後半に登場した。当時私は、シティグループ証券に勤務しながら、金融業界への生成AI実装の試行錯誤を行っていた。ただし、当時は金融機関側でAIの受け入れ態勢が整っていなかったこともあり、AIをはじめとした基礎研究の内容を社会実装することを目的に設立された株式会社松尾研究所に籍を転じることになった。
株式会社松尾研究所の活動を通じて、世界中のAI技術・スタートアップの動向を見てきたが、2025年現在、業界の焦点となっているのが中国発の生成AI「DeepSeek」である。DeepSeekは、計算リソースを大幅に抑えながら、米国のオープンAIが開発した最新モデルの生成AIと同程度の性能を発揮したため、話題を呼んだ。開発の際に不正に取得されたデータをAIの学習に使用しているとの噂や、入力した情報が中国へ流出するリスクなどへの懸念があることも確かである。ただ後ほど説明するように、DeepSeekはAI業界の競争構造に一石を投じた可能性が高い。
業界の関心が中国に集まる中で、米国でも第2次トランプ政権の誕生とともに、注目すべき動きが出てきた。これまで米国では、生成AIの研究開発の促進を支援しながら、同時にAIがもたらすリスクの抑制に強い配慮を求める姿勢を見せていた。しかしトランプ政権ではリスク重視の姿勢がかなり緩和され、イノベーションを加速させる方向性が色濃くなっている。その代表例が、今後4年間で5000億ドルを投じて米国内にAIインフラを構築する「スターゲート・プロジェクト」だ。同計画には、オープンAI、オラクル、MGXなどのビッグネームとともに日本のソフトバンクも参画を発表している。
AGI実現に向け、激しさを増す生成AI開発競争のこれから
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