2025年1月速報値毎月勤労統計。実質賃金・前年同月比3カ月ぶりマイナスだが、所定内給与・前年同月比は32年3カ月ぶりの高い伸び率に

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
宅森 昭吉

3月10日に厚生労働省から公表された毎月勤労統計1月速報値では、現金給与総額は29万5505円で、前年同月比は+2.8%で37カ月連続のプラスだった。このうち、基本給などにあたる所定内給与は26万3710円で前年同月比+3.1%の増加となり、32年3カ月ぶりの高い伸び率となった。ただし、ボーナスなどにあたる特別に支払われた給与は、昨年が高水準であった反動もあり、前年同月比▲3.7%のマイナスで、全体の現金給与総額の足を引っ張った。

デフレーターである全国消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は生鮮野菜やコメの高騰などから前年同月比が+4.7%と高い伸び率であったため、現金給与総額の前年同月比から物価変動の影響を除いた実質賃金の前年同月比は▲1.8%と3カ月ぶりのマイナスに転じた。

昨年の春闘などの影響もあり賃金は高い伸び率が続いている。一方で、物価高や、1月はボーナスの支払い額が前年同月ほどではなく減少となったことが、実質賃金の前年同月比マイナス要因になった。

■実質賃金指数・前年同月比
実質賃金指数
出所:厚生労働省
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2025年の実質賃金・前年同月比にとって、毎月勤労統計のローテーション・サンプリングの影響はプラス要因か

今後の実質賃金・前年同月比を再びプラスに転じるさせる、3つの要因があると思われる。

第一に賃上げの動向である。今年の春闘の集中回答日の3月12日には、大企業から満額の高い回答が相次いだ。今後、中小企業にも波及していけるかが注目される。

第二に物価の動向だ。これまで円安の影響が輸入物価の押し上げを通して、消費者物価指数の上昇につながっていた。現在のドル円レートは、1ドル=140円台後半である。2024年4月~6月は150円台、160円台で推移していた。日本の政策金利は上昇傾向であるのに対し米国が低下傾向で日米金利差が縮小方向なら、円安方向に大きく戻る可能性は小さいだろう。今のレート水準が継続すれば、4月~6月のドル円レートは前年に比べ円高になり、物価低下要因として働くことになる。

原油価格も同様である。代表油種のWTIの月中平均価格は、2024年1月~8月は1バレル=70ドル台、80ドル台で推移していた。2025年3月に入ってからのWTIは60ドル台後半で推移している。今の水準が継続すれば当面、原油価格の前年同月比はマイナス推移が予想される。

今、前年同月比で高騰しているコメは、政府の備蓄米放出の動きがあるなかで、伸び率を大幅に高めることも考えにくいだろう。

東京都区部消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比は1月+4.0%であった。2月の前年同月比は+3.4%で、0.6ポイント低い。なお、東京都では2024年度から高校の授業料助成の所得制限を撤廃し実質無償化した影響で、東京都区部消費者物価指数の前年同月比の方が、全国に比べ低い状況にある。教育授業料等は前年同月比▲15.3%であるので、全国に比べ前年同月比が▲0.47%分低くなっている。

全国消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比が2月は1月から東京都区部と同様0.6ポイント程度低下すれば、その分が実質賃金の上昇要因になる。

第三に毎月勤労統計のローテーション・サンプリングの影響だ。毎月勤労統計では、2018年からローテーション・サンプリングを導入し、毎年1月分調査で一部を入れ替える方式になっている。経過期間を経て2020年1月分からは、1年ごとに3分の1ずつ入れ替えられている。共通事業所に限定した集計を行い、前年同月比が参考指標として発表されている。

共通事業所ベースで2024年の「実質賃金」を試算すると意外なことに前年同月比マイナスは5月で止まっていて、6月~12月までの7カ月間、ゼロの月もあるものの、前年同月比マイナスになっていなかった。

2024年1月~12月の、現金給与総額・本系列の前年同月比の単純平均は2.6%で、共通事業所ベースの前年同月比の単純平均3.2%に比べ0.6ポイント小さくなっていた。0.9ポイント小さかった2023年に続き、2024年も2年連続で本系列の前年同月比の単純平均が共通事業所ベースを下回った。3分の1のサンプル入れ替えられることから考えて、2025年が3年連続して、本系列の前年同月比の単純平均が共通事業所ベースを下回る可能性はさすがに小さいと事前に考えていたところ、2025年1月速報値では本系列の前年同月比が+2.8%で、共通事業所ベースの前年同月比+2.0%を0.8ポイント上回った。今年は本系列の前年同月比が共通事業所ベースより高めに出そうだ。

■毎月勤労統計 2024年1月~2025年1月
毎月勤労統計
出所:厚生労働省
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